6月25日の株主総会の壇上に日枝氏(右)の姿はなかった
元タレントの中居正広氏と元アナウンサー女性Aさんとのトラブルは、フジテレビという企業そのものの本質が問われる問題となった。企業が年1回、オーナーである株主らと対話する株主総会で経営陣は何を問われ、どう答えたのか。そこにグループの”ドン”の姿はあるのか。数々の潜入取材で知られるジャーナリストの横田増生氏がフジ・メディア・ホールディングスの株式を購入し、株主として総会に出席した。(本文中、敬称略)
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フジ・メディア・ホールディングス(以下、フジHD)の株主総会は、出だしから異様だった。 6月25日の午前8時に開場となると、それまで100人近く並んでいた株主が、有明アリーナの入り口へと誘導された。
入り口では、警備会社の大勢の社員による入念な荷物チェックが終わると、金属探知機を使ってのボディーチェック。
これって株主総会だよね?
テロリストが飛行機へと紛れ込むのを防ぐための空港並みの厳重なセキュリティーに驚く。アリーナ席へと歩きながら、警備員の社章に書いてあった英語名を検索すると名古屋に本社を置く会社だと分かった。
私はこれまで、潜入取材のためにいくつかの株主総会に出席してきたが、こんな対応は初めてのこと。株主の中から犯罪者でも探し出すような手荒な出迎えに、強い違和感を覚えた。
フジHDの株主総会に潜入取材するため、同社の株を買ったのは3月下旬。議決権行使書が送られてきたのは6月12日のこと。
これまでも、佐川急便の親会社であるSGホールディングスやユニクロを傘下に収めるファーストリテイリングの株主総会に潜入取材して記事を書いた。取材にまともに答えない企業に対して、株主総会に出席し、株主として質問を通して、答えを引き出すことには、一定の意味がある。 それ以上に、会社特有の有形無形の企業文化が、株主総会に出席すると見えてくることが最大の利点だ。
日枝氏の顔色を議長がうかがう
総会当日、時折強い雨が降る中、7時すぎから並んでいた私は、先頭から数えて10番目。私が手にした株主出席票が5番となったのは、一般株主と法人株主が二手に分かれて入場したためだ。
アリーナ席へと歩く途中、大きな立て看板が目に入る。
〈会場内に置ける次の行為は、本総会の議事の運営の妨げとなりますので、ご遠慮願います。一・撮影、動画、録音 二・携帯電話、スマートフォンでの通話 三・プラカード、のぼり、旗、拡声器など 四・ビラ・チラシ等の配布 五・その他危険物の持ち込み〉
株主への威嚇ともとれる行為や看板の連続である。
アリーナ席では、議長席のほぼ正面。前から2列目に座った。左横には株主仲間と思われる男女の1組、右隣には30代の同業の報道業界と思われる男性に挟まれる格好となった。
最初にチェックしたのは、壇上に並ぶフジHDの経営陣の名前。議長席には、社長の金光修が座ることが分かった。向かって右手には専務の清水賢治、取締役の皆川、左手には取締役の深水、柾谷、和賀井、伊東……(肩書は、総会当日のもの)。
私が探している名前が見当たらない。
1992年にフジサンケイグループ内でクーデターを起こし、議長職にあった鹿内家3代目である鹿内宏明を放逐して、グループの経営権を握ってから、30年以上にわたってフジの“天皇”と呼ばれてきた日枝久の名前がない。
昨年まで毎年、株主総会に出席していた日枝が、今年は来ないのだ。
これまでのフジHDの株主総会では、社長か会長が議長席につき、日枝久が近くに座り、議長の差配に睨みを利かす、という構図だった。議長は、株主のことよりも、日枝の顔色をうかがいながら議事進行してきた。
しかし、株主総会の時点では、まだフジHDの取締役相談役である日枝久が出席する様子はない。このまま、説明責任を果たさず、逃げ切ろうという腹積もりなのか。