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仏教学者が読み解く「お布施」の効用

僧侶に渡した「お布施」は何に使われているのか? 僧侶が個人的に高級時計を買うのとお寺の本堂再建に使うのとで功徳に違いはあるか、仏教学者が解説

お布施の使い道で功徳に違いは生じるのか

 さて、ここで疑問が生じる。「お布施で渡したお金が、高級腕時計に化けた場合と、本堂再建に使われた場合では、施主の功徳に違いがあるのだろうか」と。

 この問題に対して仏教は明確な回答を与えている。当然ながら後者のほうが大きな功徳が期待される。すなわち、僧団に対して園苑や僧院、日常生活品(坐具や枕、敷物など)といった“もの”を布施すれば、いったん布施した“もの”が壊れるなどして失われるまで、布施者は絶えずその功徳を得ることができるというのである(『大毘婆沙論』122巻、『倶舎論』4章とその注釈『称友疏』)。

 この萌芽となる記述は初期仏典のうちにも確認される。

【質問者】どの様な者に、昼も夜も常に功徳が増大するのか。どの様な人々が法に住し、戒を具え、天へ行くのか」と。

【釈尊】「園に植え、林に植え、橋を渡し、水場や井戸や住所を与える人々がいる。その彼らには、昼も夜も常に功徳が増大する。彼らは法に住し、戒を具え、天へ行く」と。 (『相応部』1章五品七経)

 お布施によって得られた功徳が継続的に増大する“もの”とは、人々や僧団にとって役立つ公共物、あるいは出家修行者が使用する共用財に限られる。したがって、現代において本堂の改修工事や仏具の購入にお布施が使われた場合、その本堂や仏具が壊れるまで、そのお布施による功徳は増大し続けるとされる。一方で、高級スポーツカーや高級腕時計などの嗜好品は公共物や共用財には該当しないため、それらが購入された場合には施主にさらなる功徳は期待できない。

 このように、頂いたお布施を個人の嗜好のために使うことは、単に顰蹙を買うだけでなく、仏教教理の観点からも「好ましくない」ことは明白である。したがって、私たちが寺院や僧侶にお布施をする際には、そのお布施が何に使われているのかを注意深く見守る必要があるだろう。

※清水俊史・著『お布施のからくり「お気持ち」とはいくらなのか』(幻冬舎)より部抜粋して再構成

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【プロフィール】
清水俊史(しみず・としふみ)/仏教学者。2013年、佛教大学大学院博士課程修了、博士(文学)。日本学術振興会特別研究員PD、佛教大学総合研究所特別研究員などを務める。著書に『阿毘達磨仏教における業論の研究──説一切有部と上座部を中心に』『上座部仏教における聖典論の研究』『初期仏典の解釈学──パーリ三蔵と上座部註釈家たち』(いずれも大蔵出版)、『ブッダという男──初期仏典を読みとく』(ちくま新書)がある。

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