3ヶ月で株価が2倍以上になったソフトバンクグループ。写真は本社が入る東京ポートシティ竹芝(写真:イメージマート)
直近で株価上昇が続いているソフトバンクグループ。8月7日に発表された2026年3月期第3四半期決算を見ると、経常利益は前年比3.1倍、純利益は黒字転換と大きな成長を見せている。業績成長の要因のひとつが、ビジョン・ファンドによる投資利益だ。孫正義氏はAI分野への積極投資姿勢を表明しているが、その投資先には、AIや自動運転のような先端領域だけでなく、農業・小売・創薬といったリアル産業の革新を担う海外スタートアップも含まれている。個人投資家、経済アナリストの古賀真人氏が、前編記事に引き続き、ソフトバンクグループの将来を担う可能性を秘めた未上場の投資先企業を紹介し、解説する。【前後編の後編。前編から読む】
Quris:“患者オンチップ”で創薬を加速するイスラエルの挑戦者
Qurisはイスラエルを拠点として、AIと「Patient-on-a-Chip」と呼ばれる臓器模倣型マイクロデバイスを組み合わせた、動物実験不要の創薬プラットフォームを開発している。
臨床試験前に、ヒトでの有効性・安全性を高精度で予測できるため、創薬のスピードと成功確率を劇的に高める可能性を秘めている。医療AI×バイオの融合という極めて先端的な分野で、ソフトバンクグループは将来の「創薬インフラ」を担う存在として出資している。
マイクロ流体チップ上で人間の臓器の機能を模倣する臓器チップ市場規模は2024年の1.6億ドルから2034年には32.4億ドルへと急拡大し、創薬業界の根本的変革を牽引する巨大市場として注目されている。
従来の創薬プロセスでは、臨床研究段階で80%以上の薬剤候補が臨床試験で失敗し、そのうち30%が毒性、60%が有効性不足によるものである。動物実験では人間の反応を正確に予測できないため、より精密なヒト生理機能モデルが急務となっており、臓器チップが注目され出している。さらに、米国下院で可決されたFDA(米国食品医薬品局)近代化法案により、動物実験以外の研究データを活用した臨床試験申請が許可されたことで規制面での追い風も吹いている。
臓器チップ市場規模の成長を牽引する具体例としてQurisのようなAI統合型プラットフォームが挙げられる。Qurisは特許取得済みの「患者オンチップシステム」により、幹細胞由来組織とAIを組み合わせて臨床試験をシミュレーション化し、ソフトバンク・ビジョン・ファンド2を筆頭とした投資家から3700万ドルの資金調達に成功している。AI技術の統合により、臓器チップが生成する膨大なデータから手作業では得られない洞察を抽出し、予測モデリングの精度向上と創薬プロセスの加速を実現している。
臓器チップ市場規模は驚異的な成長率で拡大しており、創薬コスト削減と成功率向上により、製薬業界全体の投資効率化に貢献する「創薬インフラ」として、巨大な産業創出が期待される革新的市場である。