ハムエッグに会いたくて
ハムが大きいのが嬉しい
ビールを頼んだら、小皿に白菜漬けが出た。これにちょっと醤油をかけて口へ入れると、もうそれだけで、ああ、飯が食いたい、と思うわけだが、そこはこらえて、この日の1品目、冷奴を待つ。
ほどなくして運ばれてきた冷奴が、うまい。お昼の冷奴だから昼奴、日ごろあんまりやらないけれど、これが、ビールにとても合う。昔、ランチ営業をしている居酒屋で昼を食べることが多かった。私の若き日、営業マンをしていた頃の話。ざっと数えて35年くらい前、懐かしいねえ。
あの頃は昼からビールを飲まなかった。一生懸命客先を歩き回って、腹が減ると立ち食い蕎麦だ。昼に小一時間の隙間をつくって居酒屋に入り、前日の残りの焼き魚とかメンチカツとかの定食を頼める日はハレの日だった。実にめでたい気分でランチのプレートを眺めたものだったが、そういう定食の小鉢のひとつに、冷奴がついてくることがあったね。ヒジキの煮たのなんかもあった。
冷奴ひとつでノスタルジーに包み込まれる62歳。精神的に問題ないか、ちょっと心配でもあるが、そんな不安の霧もビール1本が空になるころにはすっかり晴れる。なにしろ、私の目の前には手際の良さ全国選手権大会に推挙したいこの店のお姐さんが運んでくれた、ハムエッグがあるのである。
はははは。嬉しいねえ。人の顔に見えませんか。見えるでしょう? ハムエッグがニコニコ笑ってる。この笑顔に逢いたくて、三ちゃん食堂へ来れば必ず頼むのだ。そこへ、ケンちゃん所望のキスの天ぷらがやってきた。衣はふっくら、中身フワフワの絶品キス。魚釣り名人であるケンちゃん、暑い季節のキスはうまいですぜと、にたり笑いを見せる。
このお店、魚も旨いのだから困ってしまう