だからといって、それが許されるかといえば、そんなことはなく、人には誰であっても、他人に入り込んでほしくない領域があります。みな顔を隠さずに街中を歩いていますが、それでもじっと顔を見つめられると、次第に不快を感じてしまいます。スマホの画面は使用者自身が関心のある情報を取得したり、自分の意思表明をする場面です。外貌に比べれば、ずっと内面的な人格に関わる活動をしているといってよいでしょう。
そのような他人の活動は、特に隠れてすることではありません。その意味で秘密ではないのですが、これは優れて私的な活動で、一旦見られていると気づけば、隠すのが普通です。なぜなら、こうした活動や、その扱う情報は他人、例えば車内で、隣に座った見ず知らずの乗客との共有を予定していないのが常識だからです。
言い換えると、他人と自らを峻別する活動であり、情報です。それは誰もが行なうことであって、その際には他人から立ち入りを遠慮してもらえると期待しており、周囲も配慮すべき。その期待を裏切られれば、非難されるのもやむを得ないことだと思います。
【プロフィール】
竹下正己(たけした・まさみ)/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。
※週刊ポスト2025年10月17・24日号