「争続」を回避するには遺言書が大切(写真:イメージマート)
高齢者の4人に1人が認知機能に何らかの障害があるとされるいま、親と意思疎通が図れるうちに、行く末を見据えた対策が欠かせない。事前に済ませておくべき手続きについて解説する。
一人暮らしをする80代の父親が認知症になった都内在住の会社員A氏(50代/男性)。父が施設に入居することとなり、それまで父が住んでいた実家を売却し、まとまった現金を得ることとなった。この先は、相続をスムーズに終えるよう、先を見越した行動が必要となる。
「実家の売却価格は相続税の基礎控除額の範囲内で、預貯金と合わせても相続税の心配はなさそうでした。でも、父が亡くなる前に法定相続人である弟と遺産分割について合意しておく必要があると考えたのです」(A氏)
相続についてA氏が父に聞いたところ、遺言書は作成していなかった。父は「施設入居などで面倒を見てくれたお前に全財産を渡したい」と言うが、認知症が進行した今、父の意思を相続に反映することはできるのか。司法書士の村山澄江氏が言う。
「認知症が進行し遺言能力(本人が自身の財産内容を正しく認識し、その財産を誰にどのように残したいかを自らの意思で決定できる正常な判断能力)がなくなってしまうと、法的に有効な遺言書を作成することは困難です。遺言書が作れなければ、兄と弟で遺産分割協議を行なう必要があります」
A氏と弟の法定相続分は2分の1ずつとなる。ただし、遺産分割協議により相続人全員の同意があれば自由に分割が可能なため、A氏が父の遺産を全て相続することも可能だ。
「会社の有休を使い果たし、役所や金融機関、不動産売買の手続きなどで走り回った分、弟より遺産を多めに貰いたい気持ちは正直ありました。都内から千葉の実家まで、車で往復すれば1回あたり1万円弱の出費になる。経済的負担は想像以上に大きかった」(A氏)
だがA氏は結局、弟と2分の1ずつ相続することを決めたという。遺産分割時に相続人同士の意見が分かれることが予想される場合、事前にどんな対策が可能なのか。
「やはり公正証書遺言など法的に有効な遺言書を前もって作成しておくことが最善策です。もし認知症が疑われても、本人に遺言能力があると医師の診断書で確認できれば遺言書の作成は可能なので、なるべく早めに作成しておきましょう」(村山氏)
