命の選択は人に任せない
多くの人が心を痛めるのが延命治療だ。福岡県在住の70代男性は数年前、妻が食道がんを患って食べられなくなったので胃ろうの手術を行なった。
「事前に妻と話し合うこともなく、知識もなくただ長く生きてほしいからと胃ろうを決めましたが、最期まで苦しむ妻の姿を見て後悔しています。自分の時には延命措置はしないと決めています」
事前に最期の生き方を決めておかないと、配偶者や家族に大きな負担を残すことになると田屋氏は話す。
「胃ろうなどの延命措置はその後のQOL(生活の質)が下がるだけでなく、特別な介護が必要なため施設の入所が難しくなるといったことを知らない人が多い。元気なうちに最期はどう生きたいかの意志を残しておくことが大切です。特に終末期の延命治療の選択を家族に任せるのは避けたい。命の選択を迫られる家族は大変なストレスを抱えることになります」
そのためにも、延命治療の最低限の知識を持っておくべきだとシニア生活文化研究所代表理事・小谷みどり氏は言う。
「例えば『酸素マスク』は自力呼吸できる人の鼻と口に被せる装置で、『人工呼吸器』は自力呼吸できない人が口から肺に直接管を通して酸素を送り込む装置です。そういった違いを知らず、『最期は酸素マスクはいらない』と言う人が少なくない。
そうすると脳溢血などで運ばれれば義務的に人工呼吸器の挿管をされてしまいます。まずは最低限の知識を得て、エンディングノートなどに記しておきましょう」
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※週刊ポスト2025年10月31日号