「あと5年しかない」が「あと10年もある」に
20代~40代の会社員は「どこかに今の職場よりも良いところがあるのでは」と考えがちでしょうが、55歳を過ぎ、定年退職が現実的になり始めると、会社に対してありがたみを感じるようになるようです。55歳の時に「あと5年しかない」と一瞬焦りを覚えるものの、再雇用に思いを馳せれば「あと10年もある」と考えることができ、感謝の心を持つわけです。
仮に年収が800万円だったとして、65%減となれば280万円。随分少なくなるな、と思うかもしれませんが、年金をもらえるのが65歳からなだけに、月額23万3333円をその間獲得できるのは実に魅力的な話です。何しろ、インフレで物価がどんどん上がっているのに、バイトをしても1日8000~9000円程度しか稼げないわけで、福利厚生もない。それを考えると再雇用で安定して得られる金額はとてもありがたい。
現役時代に貯蓄をしたうえで、再雇用期間の5年のうちにある程度節約をすれば、70歳ないしは75歳まで年金受給を繰り下げすることだって可能でしょう。まぁ、私自身はいつ死ぬか分からないので、65歳から年金をもらおうかと思っていますが。
55歳以降の会社員の多くは、もはや無駄な野心や夢は抱かないようになります。それが再雇用の選択と、会社への感謝に繋がる。昨今、転職戦線は売り手市場だと言われており、シニア転職という言葉も聞くようになりましたが、そうはいってもやはり転職で一花咲かせるのは、若い世代が中心でしょう。
新しい職場に夢がある、と考えるのはあくまでも若手の話。50代後半ともなれば、現役時代に散々愚痴を言っていた勤務先の方が本当は優しかったのだ、ということを感じるようになる。それが、今回紹介した3人の再雇用社員の話から、私が気づかされたことです。
【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は倉田真由美氏との共著『非国民と呼ばれても コロナ騒動の正体』(大洋図書)。