オーストラリア鉱山大手のBHPグループ(写真/AFP=時事)
中国経済に精通する中国株投資の第一人者・田代尚機氏のプレミアム連載「チャイナ・リサーチ」。米中貿易戦争が進行するなか、ドル基軸通貨制の切り崩しを図る、中国人民元の動向についてレポートする。
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オーストラリア鉱山大手のBHPグループは10月9日、第4四半期から中国鉱産資源集団との鉄鉱石スポット取引の30%について、人民元決済で行うと発表した。中長期契約については様子をみるとしているが、今後、全面的に人民元での決済に代わる可能性もあるようだ。世界最大クラスの鉱業会社が中国の国策会社の強い要求によって人民元決済を認めさせられたということで、本土の市場関係者たちは大きな関心を持っている。
鉄鉱石は金、アルミ、銅や石油などと同様、ドル建て先物市場が発達しているが、実体として先物市場での価格形成が実物価格に強い影響を与えている。結果として、豊富な資金を持つ欧米系金融筋が先物取引を通じて実物取引価格に強い支配力を持つような形となっている。
もう少し具体的にいえば、中国が大規模な積極財政政策を打ち出したとする。今後景気が拡大し、世界最大の需要家である中国が鉄鉱石輸入を増やすといったストーリーで先物市場において“実物の需給関係で決定されるだろう適正価格”を大きく上回り価格を引き上げたとすると、中国の需要家はその上昇した価格で鉄鉱石を買わなければならない。その後、欧米系金融筋が利益確定売りを出せば、先物市場で価格は急落、実物価格は適正価格を下回って下落することになり、中国筋は大きな評価損を発生させることになる。
一般論に過ぎないが、分かり易く示すとこのような仕組みで、金融市場を通じて実物市場の価格決定権を握ることができる。これが、ドルが基軸通貨であることの大きなメリットとなっている。中国側としては欧米側にある鉄鉱石価格の決定権を人民元決済とすることで、為替リスクを無くすと同時に、先物市場に左右されない直接契約によって価格決定権を持ちたいと考えている。
