中国の環境政策目標を実現するために電力システムの研究開発は急務(習近平主席。Getty Images)
中国経済に精通する中国株投資の第一人者・田代尚機氏のプレミアム連載「チャイナ・リサーチ」。中国が取り組む原子力発電システムの最前線をレポートする。
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今後、AIの計算能力がさらに高まり、AIが生産から生活の隅々まで幅広く浸透するにつれて、学習、推論に必要となる電力量は膨大となる。裏返せば、電力供給力の差がAI革命の速度を決める大きな要素となりかねない。
2024年における電力総発電量(EI統計、以下同様)をみると、中国は1万87TWhで世界最大規模、第2位米国は中国の46%、第3位インドは20%、第4位ロシアは12%で第5位日本は10%に過ぎない。太陽光、風力、地熱、バイオマスといった再生可能エネルギーでは中国は2045TWhで第2位米国は中国の41%に過ぎない。唯一原子力では米国が823TWhで世界最大、中国はその55%である。
中国の中央テレビ局(CCTV13)は11月1日、中国科学院が世界で初となる第4世代先進核分裂原子力システムの研究開発、実験炉建設(甘粛省武威市)に成功したと伝えた。現在世界で稼働している原子力発電所はウラン235、ウラン238、あるいは使用済み核燃料から再処理して得られるプルトニウム239などを燃料と使用しているが、この新システムではトリウムが燃料として使われている。溶解状態のフッ化物塩を冷却剤として使うシステムで、冷却剤にトリウムを溶かし入れることで、連続運転可能なトリウム燃料サイクルを実現させており、この点が世界初である。
少し補足しておくと、トリウム232が中性子を吸収しトリウム233となるが非常に不安定ですぐにベータ崩壊してプロトアクチニウム233になり、さらにそれもベータ崩壊して最終的にウラン233が生成される。ウラン233が核分裂を起こすことで大きなエネルギーが生み出されるが、同時に中性子を発生させる。この中性子がトリウム232に吸収されることでサイクルが完成する。
