人間はサルだという原点を忘れない
定年後は人間関係も大きなネックになる。適切な距離感を見つけるには、交友関係を「絞り込む」ことが正解である。
人間はサルだという原点を忘れてはならない。どんなサルの群れもメンバーはせいぜい30頭で、そのなかで波長の合う相手は4~5頭程度だろう。残された時間が限られるなか、心から信頼し合える友人と、残りの貴重な時間を過ごすべきである。
定年後の最大の難問といえる「妻との関係」も再構築が求められる。
退職した夫がずっと家にいると妻の生活パターンが崩壊し、ストレスから夫婦関係に亀裂が生じやすくなる。このため、“あうんの呼吸で家にいない”ことが夫婦双方のメリットになる。
そこで重要なのが家庭から離れた自分だけの時間と空間を確保する「秘密基地」を設けることだ。
経済的に許されるなら自宅近くにワンルームを借りることを勧めたい。昨今は不動産価格の高騰が叫ばれるが、都心でも築30年以上の古い物件なら月5万円程度で見つかる。トイレ共用なら2万円台でもある。
昼間は秘密基地にこもって読書や趣味などに耽り、夕食時には自宅に戻って妻と一緒に食事を摂ってコミュニケーションを重ねれば、ストレスのない円満な夫婦関係が続くはずだ。月数万円の出費は日割りにすれば1日1000~2000円ほど。それで妻との関係が良好になるなら検討に値するはずだ。もし妻に浮気を疑われたら、合鍵を渡して「いつでも歓迎します」と伝えればよい。
かつてドイツの哲学者、ショーペンハウアーはこう語った。
「未だかつて、現在のなかで、自分が本当に幸せだと感じた人間は一人もいなかった。もし、そんなのがいたとしたら、たぶん酔っ払ってでもいたのだろう」
しかし、この意見は違う。なぜなら、日本の定年後には、「自分が本当に幸せだ」と感じることができる条件がすべて揃っているからだ。(談)
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※週刊ポスト2025年11月21日号