AIに依存するリスクとどう向き合うか(イメージ)
2022年に生成AI「チャットGPT」が公開されて以来、個人の仕事レベルでも、AIが存在感を示すシーンは大きく広がっている。たとえば、ネット検索では単に関連サイトを提示するのではなく、いきなりAIの回答が表示されるなど「答えは数秒で入手できる」時代になっている。だが、便利なAIに頼りすぎるようになると、今度は“自分で思考しなくなる”という弊害も指摘されている。今後我々はAIとどう向き合えばいいのか──。最新刊『RTOCS 他人の立場に立つ発想術』が話題の大前研一氏が解説する。
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AI&スマホ革命=「第4の波」によってもたらされる劇的な変化は、国・企業・個人にも大きな変革を強いるものだ。アメリカや中国の巨大IT企業は、生成AIの性能をさらに高めて、人間の知能をはるかに超える「超知能」の開発を進めており、そう遠くない未来に「シンギュラリティ」が到来することになる。
好むと好まざるとにかかわらず、人間がやってきた頭脳労働の多くはAIに置き換えられる。すでにAIエージェントが、ビジネス面で様々な業務をこなしているのが現実だ。
AIが得意とする業務を、頑なに人間がやろうとしても、手間と時間だけを浪費して、“タダ働き”することになるだけである。
しかしその一方で、当然ながら、AIに依存しすぎることにもリスクがある。MIT(マサチューセッツ工科大学)のメディアラボが2025年6月に発表した論文がよく知られているが、小論文を書かせる問題で、チャットGPTを使ったグループと、グーグル検索を使ったグループ、そしてそれらを活用せず自力で書いたグループとに分けて脳の神経ネットワークの活動量を測定したところ、自分の頭だけを使ったグループが最も数値が高く、次がグーグル検索で、チャットGPTを使ったグループが最も低い結果となったという。
思考するプロセスを生成AIに代替してもらっているのだから、当然の結果とも言えるが、自分の脳を使わなくなれば、次第に“脳力”も低下していくだろう。
さらに、小論文の出来については、チャットGPTを使った文章は表現や構成がほぼ完璧だった一方で内容は似通ったものが多かったのに対し、自分の頭だけで書かれた文章は表現などにミスがあるものの、多様で個性的な内容になっていたという。
結局のところ、AIを活用した上で“AIにできないこと”──「発想力」や「構想力」を鍛えるしかないと思う。
