宮内純枝氏(左)は「空飛ぶクルマ」開発計画にどう携わっていったのか
日本のスタートアップの“草分け”とされるリクルートを卒業した人材、いわゆる「元リク」から各業界で活躍する人物が次々と生まれるのはなぜか。同社で紙の『じゃらん』から「じゃらんnet」「ホットペッパービューティー」までネット事業の立ち上げを担い、現在は大阪・関西万博でも注目された「空飛ぶクルマ」ベンチャー・スカイドライブのCEO室長を務める宮内純枝氏に話を聞いた。
フィールドを変えながらも一貫してきた宮内氏の「顧客と経営の間で考える視点」の源流を、『起業の天才! 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』の著者で ジャーナリストの大西康之氏が掘り下げる。宮内氏のキャリアはリクルートに入社後、マーケティング部署から紙の情報誌の「じゃらん」、そして「じゃらんネット」へと展開していく。【インタビュー・前後編の後編。前編から読む】
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「10年後に電話で予約してると思うか?」
――今の会社に移るまで「じゃらんネット」ですか?
宮内:いいえ。その後に「ホットペッパービューティー(ネット版)」にも携わらせてもらいました。ここで私は、自分が目の前の壁を破れても遠くの山脈を見つけられる人間ではないことを思い知りました。
当時、美容院さんのほとんどは紙の台帳で予約を管理されていたんですね。それをネット化しようとしたわけですが、サービスを始めた直後なんて、それこそ1日の利用件数が数十件です。さすがに「これはダメなんじゃないか」と思う私に出木場久征さん(現・リクルートホールディングス社長)はこう言ったんです。「でも宮内、10年後にみんなが電話で予約してると思うか?」って。
――ホットペッパービューティーの年間予約は今や1.8億件を超えているそうです。
宮内:私にはその未来が見えなかった。でも出木場さんや北村吉弘さん(元リクルートライフスタイル社長)には見えている。自分はそういう素晴らしいリーダーの元で、自分の出来ることをやろうと思いました。
私に見えていないことがこの世では起こる。それは今の会社で働いていることにもつながっていて、創業時、エアタクシーが街中をちょこちょこ飛んでいる未来が私には見えませんでした。新規事業というより、どこか夢でした。でも、私の予測はあてにならないので、未来が見えている福澤知浩さん(スカイドライブ創業者)と創業したいと思いました。今は、「見えている」でなく、福澤さんは未来を「創れる」人なんだと日々感じています。
――スカイドライブに移るまでは、ずっと「じゃらん」や「ホットペッパー」のライフスタイル領域ですか。
宮内:いいえ。途中で2年ほど出向していました。リクルートとトヨタ自動車のジョイントベンチャーでOJTソリューションズという会社です。トヨタ自動車の製造現場で長年の経験があるトヨタ出身者がトレーナーとなり、課題を抱えた製造業の中小企業に入り込んで指導します。リクルートから出向した私はマーケティングを担当しました。ブランディングの一環で『トヨタの片づけ』という本も作らせてもらいました。
――ああ、あの本。宮内さんが作ったんですか。
宮内:はい、企画や執筆をやらせてもらいました。その会社に2年ほどいて、リクルートに戻り、CRM(顧客関係性マネジメント)を担当させてもらいました。CRMの施策として、「じゃらん」「SUUMO」「ゼクシィ」でバラバラだったアカウントを「リクルートID」に一本化することになり、それを象徴するようなリクルートサービスを横断したコーポレートCMも担当させてもらいました。マラソンしていた俳優の池松壮亮さんが、突然コースを外れるヤツです。
