「副首都構想」を主導する日本維新の会の吉村洋文代表(写真/時事通信フォト)
「副首都構想」──日本維新の会が主張するこの政策の実現性がにわかに高まりつつある。同構想は、首都=東京の危機管理機能のバックアップ体制の構築と首都機能分散+多極分散型経済圏の形成を目的として、新たに「副首都」を創設しようとするものだ。しかし、急速に人口減少が進む中、膨大な予算を注ぎ込んで“もう1つの首都”をつくる意味はどこにあるのか──。人口減少問題に詳しい作家・ジャーナリストの河合雅司氏が検証する。【前後編の前編】
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自民党と日本維新の会が、副首都構想の実現に向けて法案作成の協議を進めている。両党は来年の通常国会で議員立法の成立を目指す考えで、11月11日に統治機構改革の協議体を立ち上げ、初会合を行った。
副首都構想は、維新の会の看板政策の1つだ。衆参両院で少数与党に転落し政権運営が極めて困難となった自民党の足元を見て、「連立参加の絶対条件の1つ」として持ちかけた。
公明党の連立政権離脱で窮地に陥っていた高市早苗総裁(首相)にこれを拒否する選択肢はなく、にわかにその実現性が高まりつつある。
とはいえ、維新の会の主張がすんなり実現するかどうかは分からない。
同党には2度にわたり住民投票で否決された「大阪都構想」(大阪府と政令指定都市である大阪市の二重行政を解消するため、大阪市を廃止して東京23区のような特別区に再編する構想)を何とか実現したいという本音があり、実質的に同党の拠点である「大阪」以外の地域が副首都の候補地に指定されづらい制度設計を求めているためだ。
たとえば、同党が提示した素案では、副首都を「日本の経済成長を牽引する都市」と位置づけ、指定の要件として大都市地域特別区設置法に基づく特別区の設置を挙げている。
大都市地域特別区設置法で特別区を設置できるのは、人口200万人以上の政令指定都市または政令指定都市と隣接自治体の総人口が200万人以上の地域であるため、維新の会の提案では副首都に意欲を示す福岡市や札幌市などは単独では要件を満たさない。
横浜市と名古屋市は単独でも候補地とはなり得るが、横浜市の場合は東京と一体的な生活圏を形成しており現実的ではない。名古屋市は「特別区」を目指す住民の機運は乏しい。
さらに、維新の会の素案では、副首都は規制緩和や税制の特例措置が認められる。交通網整備や国際会議場などを国が整備することも念頭に置いたものだが、これには「大阪に利益を誘導して党勢の盛り返しを図ろうとしている」とか「国の予算を使って大阪の都市基盤を強化するのが狙い。露骨な我田引水だ」といった辛辣な見方が少なくない。このため大阪以外では世論の盛り上がりに欠けているのが実情である。
