橋爪:毛沢東もナンバー2を次々と失墜させましたが、毛沢東の死後は、党中央政治局常務委員のなかで、残った者が集団指導でやろうと決めた。軍の長老である葉剣英がいたから人民解放軍も納得した。
峯村:さらに当時は毛沢東に「あなたがやってくれれば安心だ」との遺言を得た華国鋒が三権(党主席・国務院総理・中央軍事委員会主席)を掌握できたので可能でしたが、今は肩書き上も能力的にも当時の華国鋒に当たる存在が見当たりません。
橋爪:中国は指導者を選挙で決める習慣も伝統もない。形は選挙でもボスが決めた人事名簿に賛成するしかなかったところに、ナンバー2を置かないナンバー1が現われた。突然の病や事故で不在になったら、迷走するのは目に見えています。
峯村:日本や世界への影響は台湾リスク以上かもしれません。軍の統率がなくなり国がバラバラになって軍閥が主導権争いを始める。それぞれが核兵器を持ち、日本に軍事挑発を強める事態は容易に想像できます。
橋爪:中国の内部が分裂すれば、ロシアや北朝鮮が介入するでしょう。
権力の空白が生じたら、外国のバックアップを受けた強い勢力が、それを背景に中国国内を仕切る。過去、中国ではみなそうやってきた。米国にはそこまでのシナリオを用意してもらいたい。
峯村:米国の複数の軍や情報機関の高官らが「2027年まで」に台湾有事が起こる可能性を指摘しています。当然、さまざまなシナリオを想定してシミュレーションをして準備を進めていることでしょう。
もちろん同盟国日本もそれを念頭に置いたうえで、2026年の外交政策を練っていく必要があります。
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【プロフィール】
橋爪大三郎(はしづめ・だいさぶろう)/1948年、神奈川県生まれ。社会学者。大学院大学至善館特命教授。著書に『おどろきの中国』(共著、講談社現代新書)、『中国vsアメリカ』(河出新書)、『中国共産党帝国とウイグル』(共著、集英社新書)、『隣りのチャイナ』(夏目書房)、『火を吹く朝鮮半島』(SB新書)、『あぶない中国共産党』(峯村氏との共著、小学館新書)、『日本人のための地政学原論』(ビジネス社)など。
峯村健司(みねむら・けんじ)/1974年、長野県生まれ。キヤノングローバル戦略研究所上席研究員兼中国センター長。ジャーナリスト。北海道大学公共政策大学院客員教授。朝日新聞で北京・ワシントン特派員を計9年間務める。中国軍の空母建造計画のスクープで「ボーン・上田記念国際記者賞」(2010年度)受賞。著書に『十三億分の一の男』(小学館)、『台湾有事と日本の危機 習近平の「新型統一戦争」シナリオ』(PHP新書)、『あぶない中国共産党』(橋爪氏との共著、小学館新書)など。
※週刊ポスト2026年1月16・23日号