オープン初期と半年後で商品が変化する“事情”
もちろん、フリークは多くても2~3回程度しか来店しない。店の売り上げの基盤になるのは、結果的には地元客である。このバランスを誤ると、フリークには刺さるが一般客にとっては「わかりづらい」「尖りすぎている」という状態に陥る。だからこそ、オープン初期と半年後で商品が変化することは、実は業界では珍しくないと「つけめんTETSU」創業者の小宮一哲さんは語る。
たとえば最初はあえて塩味を強めに設計し、「パンチがある」と評価される入口をつくる。その後、SNS上での役割を果たしたと判断した段階で、訪れる一般客のニーズに合わせて味をマイルドに調整する。麺の太さも、ラーメンフリークに驚きを与えられる範囲でわずかに強めておき、半年後には着地目標に寄せる。視覚的にわからない程度の微調整なら、フリーク層の違和感も最小限になる。
重要なのは、あくまで最終形のラーメンのゴールを事前に持ち、そのうえでオープン直後の話題性をつくるためにエッセンスを加えるという順序である。最初の尖りが主ではない。あくまで本命のラーメンを最終的に広く受け入れてもらうための導線づくりだ。もちろん尖ったままの設計で集客が持続することも多いので、人気店においてはその限りではない。
辛辣な評価を受けてしまったらどうするか?
では逆に、ラーメンフリークから辛辣な評価を受けてしまった場合はどうするべきか。たとえば「麺が太すぎて食べづらい」「顎が痛い」など、SNSでネガティブな声が可視化されるケースもある。その際に有効なのは、潔い「リニューアル」である。清掃、接客、商品クオリティなど基本を徹底したうえで火がつかないのであれば、この地域にこのラーメンが求められていなかっただけだと割り切る。ブランド名や看板、どんぶりを変えれば、同じ場所でまったく別のラーメン店として再スタートできるのもラーメン業態の強みだ。
撤退せず、「場所は正しかった」と信じ、提供するラーメンを変えることで再挑戦する──その柔軟性こそが、都市型ラーメンビジネスのサバイブ方法となる。 結局のところ、都心部においてラーメンフリークを意識するべきかどうかという問いに対する答えは、明確に“イエス”である。ただし、中長期的には立地と一般客のニーズに合っているかを確認し、ズレを感じるようであれば調整し、日常食としての最適解に寄せていく。この二段階の戦略こそが、都市部で繁盛を勝ち取るための現実的なアプローチなのだ。
※井手隊長『ラーメンビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)より
【プロフィール】
井手隊長/全国47都道府県のラーメンを食べ歩くラーメンライター、株式会社フライヤー執行役員、flier公式チャンネル総合プロデューサー。「東洋経済オンライン」「プレジデントオンライン」「AERA DIGITAL」等の連載のほか、メディア出演、ラーメンの商品監修など多方面で活躍中。ラーメンの「1000円の壁」問題や「町中華の衰退事情」「個人店の事業承継」など、ラーメン業界をめぐる現状を精力的に取材。テレビ・ネット番組への出演は「羽鳥慎一モーニングショー」「ABEMA的ニュースショー」「熱狂マニアさん!」「5時に夢中!」「サクサクヒムヒム ☆推しの降る夜」など多数。東洋経済オンラインアワード2024にて「ソーシャルインパクト賞」を受賞。著書に『できる人だけが知っている「ここだけの話」を聞く技術』(秀和システム)、『ラーメン一杯いくらが正解なのか』(ハヤカワ新書)、『天下一品無限の熱狂が生まれる仕掛け』(日本実業出版社)などがある。