「ネット時代の企業経営の本質」を予見していた出井伸之氏
“日の丸家電”という言葉は死語になって久しく、世界において日本メーカーの存在感はゼロに等しい。そんな中、ソニーだけは企業として変革を遂げ、最高益を更新し続けている。そのきっかけを作ったのが2022年6月に亡くなった元社長、出井伸之氏である。ノンフィクション作家・児玉博氏は、生前の出井氏に取材し、没後は関係者への取材を続け、評伝『ソニー神話を壊した男 出井伸之が創った未来』を上梓した。児玉氏が知られざる人物像に迫った。(文中敬称略)【前後編の後編】
技術者たちの反発を上回った未来への危機感
エンターテインメントなどコンテンツをネットワークで配信し、持続的に利益を生む仕組みを模索し続ける。だから、そんな出井をしてこんな言葉を吐かせる。
「テレビスクリーンの明るさだとか解析力の美しさなど問題でなくなる」
「大事なのは中身(コンテンツ)だ。誰がその中身を作り、誰がそれを配信するネットワークを支配するかだ」
ソニー神話の一端を担ったトリニトロンテレビを念頭に置いたであろう出井の発言に社内では、特にソニーを支えていると自負する技術者たちの反発が尋常ではなかった。けれども、出井のソニーの将来、ソニーの未来への危機感はそれを上回っていた。
「まったく新しい事業のモデルを進化させることができなければ、ソニーはネットワーク経営者にエレクトロニクス部品を提供する存在に成り下がる」
出井のソニーに対する危機感はこんな言葉さえも言わせることになる。
そして、出井の危機感は現実のものになる。
