管理職になってもいいことなし?(イメージ)
日本企業の上司は、欧米企業のそれとは異なり、実務とマネジメントを同時に担う「プレーイング・マネジャー」として働いている。人事権は持たず、自身の異動もコントロールできない不安定な立場だ。その結果として生じるのが、上司と部下の“逆転構造”である。
異動してきた上司が業務を理解しておらず、部下から教わる場面も少なくないが、このような姿を目の当たりにした若手社員の昇進意欲は低下していく。日本企業に多い「指示待ち部下」が生まれる構造的問題とは──。元グーグル人材育成統括部長として活躍したピョートル・フェリクス・グジバチ氏による著書『世界の一流は「部下」に何を教えているのか』から一部を抜粋して再構成。【全3回の第1回】
部下が上司を育てる「本末転倒」の構図
日本企業の上司には、部下に対する人事異動の権限がないだけではなく、上司本人がいつ異動の対象になるかわからない不安定な状態で毎日の仕事をしています。
欧米企業のビジネスパーソンの間では、「タチの悪い冗談」と受け取られていますが、上司が未経験の仕事を扱う部署に異動になって、部下に迷惑がられながら右往左往する……という悲劇は、意外と頻繁に起こっています。
悲劇の原因は、上司よりも部下の方が、仕事内容に精通していることにあります。上司は自分の存在意義を示そうと考えて、忙しく働く部下に対してあれこれと質問したり、見当違いな提案をすることが少なくありません。その度に、部下は上司に対して仕事の詳細を説明したり、場合によっては、上司を教育するための会議を開くこともあります。部下を育成するどころか、逆に育ててもらうのですから、まさに本末転倒です。
こうした状況が繰り返し続くことで、上司と部下の双方がストレスを抱え込むのは、日本のビジネスパーソンにとっては「あるある」の出来事だと思います。
最近の日本企業では、「出世したい」と考える若手社員が少なくなっています。その理由は、目の前で自分の上司たちの悲劇を見続けていることにあります。
自分のチームであっても、採用の権限も人事権もなく、簡単に解雇もできなければ、人事評価も満足にできない。面倒くさい部下を相手に、あまり意味があるとは思えない会議を開いて、いくら自分の権力をアピールしてみたところで、ひとたび会社から人事異動が発令されれば、すぐにチームから消え去ってしまう存在……という上司の生々しい姿を、若手社員はクールな目で見つめているのです。
もうひとつの理由は、欧米企業や外資系企業のマネジャーと異なり、日本企業の上司の大半が現場の実務も兼ねる「プレーイング・マネジャー」であることです。
面倒なチーム運営や実務に奔走しても、それほどは給料が上がらないという現状を見ているため、現場プレーヤーに徹して結果を出した方が、ボーナスやインセンティブ(報奨金)が出ることで、収入アップの可能性があるだけでなく、自分のスキルアップやキャリアアップにもつながる……と考えてしまうのです。
年功序列や終身雇用が崩壊寸前にあることが、若手社員の「出世意欲」の減退につながり、仕事に対するモチベーションにも影響を与えています。その余波をモロに受けているのが、現代の日本企業の上司なのです。
*ピョートル・フェリクス・グジバチ著『世界の一流は「部下」に何を教えているのか』(クロスメディア・パブリッシング)より一部抜粋して再構成。
(第2回に続く)
【プロフィール】
ピョートル・フェリクス・グジバチ(Piotr Feliks Grzywacz)/連続起業家、投資家、経営コンサルタント、執筆者。プロノイア・グループ株式会社代表取締役、株式会社GA Technologies社外取締役。1973年ポーランド生まれ。2000年に千葉大学研究員として来日。モルガン・スタンレーで組織・人材開発を担当後、グーグルで人材育成統括部長として、リーダーシップ開発と組織変革を統括。2015年に独立し、未来創造企業のプロノイア・グループを設立。ベストセラー『世界の一流は「雑談」で何を話しているのか』『NEW ELITE』他、多数の著書がある。グローバル企業での豊富な経験を活かし、日本企業の組織変革や人材育成に関するコンサルティングを行っている。
