唐津くんち
「お前は唐津くんちの歴史を後世に残せ!コレがオレの終活だ!」
続いては、今年82歳になる元うどん屋の女性・Bさんです。80歳になったらうどん屋は廃業すると宣言し、その通りにしたのですが、廃業後は私に雪平鍋をくれました。そして、自身が所有する手漕ぎボートを「いつでも使っていい」と言ってくれた。私は友人とともに何度かこのボートに乗り、沖にある堤防でカサゴ(九州では「アラカブ」)を釣ったのですが、今度はこのボートを処分したいと言う。
「私もそろそろ、終活をせないかん。こんな大きなもの、もういらんからね。だからといって捨てるのも大変。アンタたち、このボート引き取ってくれない? とにかく私が所有者ではないことにしたいの!」(Bさん)
そう言ってきたので、ある日、私と友人は軽ワゴンに乗り、このボートを天井に積んで帰って、友人の庭に置いておくことにしました。友人は修理をしながらいずれ使うそう。彼女は「あ~、これで肩の荷が下りた。ありがとう」と言い、我々に感謝をしてくれたのでした。
そして3人目の、78歳男性・Cさんですが、この数週間で途端に衰え、矍鑠(かくしゃく)としていたのに突然杖を使うようになり、酒もやめました。どうやら、肺がんと慢性腎不全を含む4つの重大な病が見つかったそうです。そんな彼の家を訪れたら、「残りの人生でやりたいこと」を言い出しました。
「オレは唐津くんち(唐津神社の秋例大祭)をあと2回は経験したい。オレは銀座が好きだった。銀座にも行きたい。それを達成したうえで中川!(私のこと) お前は唐津くんちの歴史をきちんと後世に残せ! 今の70代・80代の重鎮から貴重な話を聞きだし、各種資料をもらってなんとか出版にこぎつけてくれ! 紹介はしてやる! コレがオレの終活だ!」(Cさん)
はたして私自身にそれが実現できるのか、今の段階ではっきりしたことは言えません。それでも、この魂の慟哭にはこころを動かされ、この男性の終活に乗っかることにしました。今回紹介した3人、自身の人生の終わりがいつ頃になるかは、どことなく悟っているのでしょう。私は50代前半ですが、「終活」については日々念頭に置いて生きていこうと考えるようになりました。いつ交通事故に遭うかもわかりませんからね。
【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は『それってホントに「勝ち組」ですか? 現代格差の読み解き方』(鹿砦社)。
