最初のつまみはキヌカツギから
キヌカツギの食べ方
その、懐かしい女将さんは、昨年、他界された。お店はその6年前に改装され、現在の形になったのだが、新装開店した店に挨拶に行こうと思いながらコロナ禍もあって足が遠のいていた。
以前は木造の2階建てだったかな。店に入ると右手に、奥に伸びるカウンターがあり、左手は座敷になっていて、いくつもの座卓が置かれていた。そして、2階もあった。そう、たしか、そういう造りだったと思う。あまりに雑然としていて最初はびっくりしたが、座って飲み始めると不思議に心が和んだ。友達の下宿とか、昔あった地方の駅前旅館で飲んでいるような、なんとも言えない味わいがあった。
今、店の造りは大きく変わったし、建物がそもそもビルになって実に立派なわけだが、壁にべたべたと貼ってある品書きとか、酔客の喧騒に、昔の匂いが色濃く残っている。奥のテーブルは、私と同年代か、あるいはもうちょっと先輩たちの、飲み会らしい。私の隣のテーブルは若いビジネスマン4人組。最初は学生かと思ったが、声高に話していることから、若手のビジネスマンとわかる。当てずっぽうで恐縮だが、たぶんIT系。コンサルかもしれない。そんな気がした。私の子供たちより10歳くらい年下だろうか。顔なんかツルツルしている。
昔の店を想起させるメニュー。今も通い続ける常連さんが多い
キヌカツギと、鯵のなめろうを注文した。先に出てきたのがキヌカツギ。ここで、ひとつ、驚愕する事態が起こった。
テーブルまで運んでくれたのは、アルバイトだろうか。若い男性だった。
「はい、キヌカツギです。お客さん、食べ方わかりますか?」
はい? 食べ方?
手でつまんで食べるんだろと仕草で示す私に、彼はこう言ったのだ。
「皮は食べられないっすよ」
これには驚いた。しばらく声が出ないほどだった。この子は、ここで働くまで、キヌカツギを知らなかったのだ。それだけでなく、私もきっと知らないだろうだから、教えてあげようと思ったのだ。きっと親切な若者なのだろう。ありがたいじゃないか。いやしかし、還暦過ぎてキヌカツギの喰い方を若者から教わるとは思わなかった。

