本当に見るべき数字は494億円ではない
本当に必要なのは、「ジャングリアがなかった世界」との比較である。ジャングリアがなければ沖縄へ来なかった人は何人なのか。来ていたとしても、滞在日数や消費額はどれだけ少なかったのか。他の観光施設、ホテル、飲食店、ゴルフ場から、どれだけ客と売上を奪ったのか。混雑や宿泊料金の上昇を嫌い、沖縄旅行をやめた人はいなかったのか。これらを差し引いた純増分だけが、本当の経済効果ではないか。
こうしたミスリードをやめるよう、多くの学術研究が警鐘を鳴らしてきた。例えば、OECDも大型観光イベントの評価では、他の場所で失われる消費、混雑によって追い出される需要、地域外へ流れる利益を分け、事業があった場合となかった場合の差を測るよう求めている。沖縄県内で消費場所が移っただけの金を、新しく生まれた金として数えてはいけない。
りゅうぎん総研の半年版は、県外への漏出を一定程度反映している。しかし、県内の別の観光地から奪った需要や、混雑によって失われた需要を独立して差し引いていない。
しかも、1年間の494億円については、半年版のような詳しい算定資料が示されていない。直接効果はいくらだったのか。なぜ「1泊と1日」という仮定を使ったのか。どの支出をジャングリアの成果に振り分けたのか。波及倍率はいくつだったのか。外部から検証できない。このように不透明すぎるにもかかわらず、結果の494億円だけが大きく発表された。
本当に見るべき数字は494億円ではない。年間150万人以上という集客水準に届いたのか。答えはノーだ。売上100億円から利益が出たのか。公表されていない。地元企業の利益、住民の所得、自治体の税収は、ジャングリアがなかった場合と比べていくら純増したのか。これも示されていない。分からないものが、巨大な「494億円」で覆い隠されているように見える。
ジャングリアは約100万人を集めた。しかし、開業前に示された集客水準には大幅に届かなかった。初年度の採算も明らかにされていない。その横で膨らんだ494億円は、ジャングリアの成功を証明する数字ではない。
むしろ「経済効果」という言葉が、事業の苦戦を隠すためにどれほど便利に使えるかを証明する数字ではないだろうか。
【プロフィール】
小倉健一(おぐら・けんいち)/イトモス研究所所長。1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立して現職。