「大企業に入れば解雇されないで安泰」という信仰
関西には早慶ほどの最難関の私立大学がないという事情もある。関西の難関私立大学、関関同立の一般選抜は、関東のMARCHに比べても受けやすい内容だ。英語の入試問題を見ても、MARCHの場合、問題文の語数が4000語から5000語までと多いのに対し、関関同立の場合、3000語程度だ。基礎をしっかり勉強すればクリアできる。そうなってくると、「関関同立は一般選抜で合格できる。進学校に通わせて国立大学や医学部をも狙わせたい」と考え、中学から付属に入れるメリットを感じにくいのではないか。
また関東の場合、大企業への就職という安定ルートがある。大学通信の「2026年有名企業400社実就職率ランキング」によると慶應の卒業生の有名企業就職率は48.7%。約半分が大企業に就職する。
たとえば、ネットスラングに「Windows2000」という言葉がある。大企業でろくに働かなくても年収2000万円をもらう窓際族を指す。そういった窓際族の姿を見ている関東では「親の力で無理矢理慶應に入れて、大企業に就職すれば、仕事ができてなくても解雇されないので安泰」と考える親がいても不思議ではない。本人の成長よりも、まずは名門大学に進学させることを優先させようとする。
付属人気が小学校受験にまで広がる
関東では、中学受験で、個別指導塾に週に何日も通わせ、「過保護」にケアして早慶の付属に入れようとするケースも多い。そうやって早慶の中学付属に入学させても、授業についていけなくなるからまた個別指導などの塾に通わせる。最近は大学の授業についていけない子のための塾もあるという。そうやって「親の経済力」で、子供に名門大学出身の肩書きを与えようとする。
ゆえに小学校受験も人気が高まっている。早稲田や慶應、MARCHの付属小学校に入れて、大学までエスカレーター式に進学させようとする家庭も増えているのだ。付属校の小学校受験は学力試験以外の「行動観察」が重視される。みんなで遊んだり、ゲームをやったりする様子を試験官たちが観察し、点数をつけていく試験だ。ペーパー試験は家庭でドリルをごりごりやればどうにかなるが、この行動観察の対策は素人にはできないため、幼児教室に通う必要がある。1年間で200万円ほどの費用がかかるが、中には個別指導のオプションも支払ってでも、どうにかして子供を早慶の付属に入れようとする家庭もある。関東では受験が「課金ゲーム化」している。
一方、関西は、大企業の本社機能が少ないので、「難関大に入れて大企業に入れれば安泰」というふうに考えにくい。我が子を社会に出て活躍できる人間にしなければと保護者は考える。そうなると、「受験は子供を自立させ、成長させるチャンスだ」と捉えることになるのではないか。
今回は関西と関東の付属校人気を比べ、大学受験への考え方の違いに言及した。東京の場合、小学校から付属に入れてエスカレーター式に大学に行かせるのが正解という価値観がある。背景には、早稲田や慶應に進学し、大企業に就職したらめったなことでは解雇されないので一生安泰という「既得権への幻想」があるのだろう。一方で、関西の場合、そういった幻想はないため、受験は子供が成長する機会と捉え、努力させたいと願う。
次回は内部推薦以外の推薦を見ていこう。注目の「年内学力入試」は元々は関西で広がったものだ。推薦入試への関西と関東の違いについて見ていこう。
【プロフィール】
杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ)/ノンフィクションライター。2005年から取材と執筆活動を開始。『女子校力』(PHP新書)がロングセラーに。『中学受験 やってはいけない塾選び』『大学受験 活動実績はゼロでいい 推薦入試の合格法』(ともに青春出版社)も話題に。『ハナソネ』(毎日新聞社)、『ダイヤモンド教育ラボ』(ダイヤモンド社)、『東洋経済education×ICT』などで連載をしている。受験の「本当のこと」を伝えるべくnote(https://note.com/sugiula/)のエントリーも更新中。