いま根本的に考えるべきは、副首都をどこにするかではない(イラスト/井川泰年)
「副首都法」が国会で成立し、これから副首都の具体的な指定要件を定めていくことになる。大阪以外の自治体も続々と副首都へ名乗りを上げている中、経営コンサルタントの大前研一氏は「副首都をどこにするか」という議論そのものが的外れだと指摘する。どういうことか。日本で目指すべき中央に依存しない地方主権のあり方について、大前氏が提言する。
首都は「機能」であって「土地」ではない
「副首都法」が先の国会で成立した。副首都構想は、自民党と連立政権を組む大阪府を本拠地とする日本維新の会の肝煎り政策のため「大阪ありき」「大阪への利益誘導」との批判が出て他の地域にも門戸を開くことになり、大阪以外も続々と名乗りを上げている。共同通信の調査(8月14日配信)によると、副首都申請を検討している道府県は北海道、宮城、群馬、愛知、大阪、広島、福岡、人口50万人以上の政令指定都市は札幌、新潟、名古屋、大阪、北九州、福岡だった。
だが、そもそも、なぜ副首都構想なのか? 副首都法は「災害等の発生により首都中枢機能の全部又は一部の機能を維持することが困難となった場合において、国民生活及び経済活動に及ぼす影響が最小となるようにするため」としている。国会審議で、自民党は、法案の主眼は東京を直撃する首都直下地震と富士山噴火への備えにあるとし、南海トラフ地震について「東京では首都中枢機能の維持が困難になるほどの被害は想定されない」と主張した。
だが、南海トラフ地震で大阪と同時に東京も被災する可能性は否定できない。実際、関東地方の太平洋沿岸の広い地域に10mを超える大津波の襲来が想定されている。さらに、日本列島の陸域と周辺の沿岸域には2000を超える活断層があるとされている。つまり、日本はいつ、どこで大地震が発生しても不思議ではないのだ。
大地震が起きたら津波や火災などの複合災害に見舞われる恐れもあるわけで、日本のどこかに(とくに南海トラフ地震で被災する可能性が高い大阪に)副首都をつくるというのは、極めて浅はかな19世紀の発想である。
また、日本政府はいまだに“アナログ”だが、世界ではデジタル化が急速に進展している。そこで最も重要な政府の役割と首都機能は、国民に対するサービスの提供だ。となれば最大の問題は首都がどこにあるかではなく、国民データベースや膨大な行政システムを保管・バックアップするサーバーがどこにあるか、ということだ。
サーバーの危機管理という点で参考になるのは、アメリカのベンチャー企業向け株式市場「ナスダック」だ。そのサーバーは強固な岩盤と時間差がある世界3か所の地下深くに分散設置されている。だから9.11のアメリカ同時多発テロ事件でワールドトレードセンターが崩壊した時も即座にサーバーを切り替えて、ほぼ影響なくオペレーションを継続することができた。
かたや東京証券取引所のバックアップサーバーは、日本橋兜町の道路の向こう側だ。東京都のバックアップ機能は立川市で整備しているという。いずれも首都直下地震が起きたら共倒れになるので、バックアップの意味はない。
もし政府と首都のシステムが完全にデジタル化されたら、サーバーはナスダックのように国外に分散設置すべきであり、究極的にはイーロン・マスク氏が提唱しているように宇宙空間に置く可能性も考えられる。いずれにしても、デジタル政府となれば、首都がどこにあろうと関係ない。
副首都法案を審議した“アナログ国会議員”や副首都候補に手を挙げている首長たちは思いも寄らないだろうが、首都は「機能」であって「土地」ではないのだ。
いま根本的に考えるべきは、副首都をどこにするかではなく、この国の統治機構をどう変えるか、である。
