自分の専門以外の知識に欠ける「専門医」がなぜ生まれるのか(イメージ)
日本のトップ病院である東京大学医学部附属病院(2026年10月より組織改編のため東大病院に名称変更)に限らず、21世紀に入ってから日本の医療界全体の臨床能力は落ちているという指摘がある。この問題の根底にあるのが「専門医制度」だという。「東大卒の東大嫌い」を自認する96歳の内科医で、元東京大学健康管理センター(現・保健・健康推進本部)教授の坂本二哉(つぐや)氏は、「専門医制度」こそが自分の専門外については知識・関心のない「専門バカ」が増えた原因だと主張する—──。
日本医学界の頂点に君臨する東大病院の内実を赤裸々にあぶり出す、同氏の著書『戦慄の東大病院』(飛鳥新社)より一部抜粋して再構成。【全3回の第1回】
「専門医制度」が臨床能力を下げている
臨床能力の低下は東大病院に限らない。一部の例外はあるが、日本の医療界全体の臨床能力は2000年代に入ってから目立って落ちている。
最大の原因は、東大と厚生労働省が中心になって進めてきた「専門医制度」にある。
一般の人は、専門医は広い医療知識と豊富な臨床経験に加え、専門知識も併せ持つ医師のように思うだろうが、実態はまるで違う。いまの専門医は医学知識が極端に偏っており、自分の狭い専門以外の分野は何もわからないか、関心がない者が目立つ。言葉は悪いが、いわゆる“専門バカ”である。一般的な広い診療知識を養う前に狭い専門科目の習得に専念するため、実際の診療においては、ごく限られた専門分野のことしかわからない。また自分の専門に近接する専門分野をあえて遠ざけて、自分の殻に閉じこもる。
なぜそうなるのか。現在、国は専門医の養成を主眼に置いた若手医師の研修制度を作って運用している。医学生は医師国家試験に合格して医師免許を取得した後、医療機関で2年間の研修(初期研修ともいう)を受けることが義務付けられている。医師免許を持っているだけでは医師として到底使い物にならないからだ。
2009年に研修医制度が見直され、研修医は、必修科目の内科、救急部門、地域医療に加え、外科、麻酔科、小児科、産婦人科、精神科のうち2科目を選択して、2年間でそれぞれの科を一通り経験する。このため、もっとも重要な内科ですら半年程度の研修期間に過ぎず、それも単なる努力目標。従って研修を終えた時点では、医師としては、まだヒヨコのレベルでしかない。
ところが専門医制度では、研修を終えたばかりのヒヨコが、いきなり医療機関の専門分野の科目とその分野の学会に所属して、専門医を目指すことになる。彼らは「専攻医」(後期研修医)と呼ばれるが、実態は研修医同様、まだ研修中の身であることに変わりはない。
その後、彼らは3年ほどで専門医試験の受験資格を与えられ、合格すると、20代後半で晴れて「専門医」に認定されるのが一般的だ。
