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「82歳の女性が小児科に回される」医学の一般常識のない“専門バカ”医師がなぜ生まれるのか? 元東大教授医師が指摘する日本医療界の「専門医制度」の弊害

患者の全体像を診療できないシステム

 私は米国同様、専門医は医療全般について豊富な知識と臨床経験を持った人が目指すべきだと思っている。それがわずか2年で臓器別の専攻医に移行し、その3年後か、遅くとも5年後までに専門医試験を受けて専門医になる。これでは現代の医学の幅広い知識を得ることは困難だし、万一、知識を得られたとしても到底、専門医と呼ぶに値(あたい)しない。

 そもそも日本の専門医制度なるものは外国のようなれっきとした国家検定試験があっての資格ではない。単に学会が自分の権威付けと金儲けのために資格を与えているだけのように私には見え、信憑性に乏しい。

 アメリカの専門医は権威があり日本の似非専門医とは違う。恐ろしく狭い専門の殻に閉じこもる日本の医師と比べ、アメリカの専門医は広い視野を持っている。専門医でもある大学教授の中には内科と小児科の兼任教授、循環器内科と薬理学兼任教授や、面白いところでは内科・外科兼任教授さえいる。

 それに比べ、専門病院化が進んだ日本は、ありふれた疾患を一人の医師が扱えなくなり、患者はあちこちたらい回しにされて経済的、時間的負担を負わされている。

 しかも専門医の認定基準もお手盛りで、単なる筆記試験や試験管研究、あるいは流行りの医学統計、さらには形式的な学会出席回数や形ばかりで詐欺とも言える手術回数や侵襲的検査(内視鏡検査等)などをもとに専門医の称号を与えている。高度の検査施設を持たない病院の医師が「○○病院で高度検査を何例行った」と虚偽申告した例もある。

 いまの制度では、医師は若いうちからごく狭い専門分野に集中することになる。その結果、自分の専門以外の関連医学を知らず、医学の一般常識のない医師が大量に生み出されている。一般的な診療知識を養う前に、狭い専門科目の習得に走り、それが専門の医師であるかのような錯覚を生み出し、患者の全体像を診療できないシステムになったのだ。いまの制度が医療を台無しにしたと言える。

 そもそも医療の対象は病気そのものだけではない。最も大切なのは「患者の気持ちを汲み取ること」である。これは昔、我々が医学倫理や医学概論で学んだことだ。ところがいまの専門医制度にはそれが欠落している。

 政府は、専門医は患者疾患の全貌を知っていると思い込んでいるようだが、ことはまったく逆で、心疾患全般の診察はできないが、心臓カテーテルだけ上手にできるといった極端に偏った“専門医”が大量生産されているのが実態だ。肝臓は診るが胃や腸は診ない、そんな医師でも消化器専門医を名乗れるのだ。

次のページ:先天性の疾患という理由で82歳の女性を小児循環器科に回した医師
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