思い残すことがないようにしたい(イメージ)
人生終盤戦は、いつ何かおきてもおかしくない。連れ添った夫婦のどちらかが、先に旅立ってしまうこともあるのだ。だからこそ、まだ体が動く最後の10年は、お互いが「その時」に備えられる最後のチャンスだ。一方、いよいよ「その時」が目の前にくる「最後の1か月」では、何ができるのか。どんなことをすれば、幸せな最期を迎えられるのか。夫婦でできる正しい備えを考える。
「何を済ませるか」から「どう過ごすか」へと発想を切り替える
最後の1か月になると、できることは限られる。訪問診療専門医で心越クリニック理事長の岩間洋亮医師が語る。
「老衰でもがんの末期でも、最後の1か月は生活の大半がベッドの上になり、食事や水分の摂取量が減ります。空腹やのどの渇きを自覚しにくくなり、栄養状態が悪化して筋肉量が低下し、さらに動けなくなります」
身体状況を考えれば、この時期になって身の回りの整理を進めたり、新しい契約を結んだりすることは現実的ではない。行政書士の中田多惠子氏が指摘する。
「最後の1か月に最も優先されるべきは新しい作業ではなく、『心穏やかに過ごすための時間』を作ることです」
最後の1か月は「何を済ませるか」から「どう過ごすか」へと発想を切り替える時期なのだ。医療面で最優先されるのは、本人の痛みや苦しみを取り除くことだと岩間医師が指摘する。
「この時期は、がんなら痛みを、心不全なら呼吸苦をできるだけ取ることが重要です。薬を飲むことができなくても、貼り薬などで苦しみを和らげることができる。終末期は我慢せず本人の希望を医師や看護師に伝えることが大切です」
残り1か月、死期が迫った患者にとっては「食べる喜び」も大きな意味を持つ。岩間医師が診た患者には、大好物のウナギを2口食べた翌日に亡くなった人や、軟らかくした好物を少し口にしたその晩に亡くなった99歳の女性がいた。いずれも最後まで「好きなものを食べる」ことができた。
「嚥下機能が落ちても、見た目や食感を工夫した食事で楽しめます。例えば、見た目は普通の筑前煮や牛タンシチューなのに、口の中で柔らかく崩れて飲み込みやすい食品がある。そうした工夫は、生きる楽しみを最後まで守ります」(同前)
最後に好きなものを食べたいという希望は自然なものだ。岩間医師は、最終的に何を食べるかは夫婦や家族が判断することであり、医療側が一方的に否定するべきではないと考える。
