ロフト創業者・平野悠氏(撮影/大塚恭義)
ライブハウス「ロフト」を創業し、新宿や下北沢をはじめ都内各所でロック・フォークの聖地を作り上げた平野悠氏(82)。1995年には日本初のトークライブハウス『ロフトプラスワン』を立ち上げた。そんな平野氏は2021年、千葉県鴨川市の高級老人ホームに入居した。一時は「天国だ」と感じた施設だったが、わずか2年で退去……。何かあったのか。“終の棲家”で味わった悲哀を平野氏が明かした。【前後編の前編】
目を覚ませば眼前に海が広がり…
きっかけは倉本聰さん脚本のテレビドラマ『やすらぎの郷』(2017年放送 テレビ朝日系列)だよ。ミュージシャンや脚本家として活躍してきた老人たちが海の見える施設に集まり、酒を酌み交わしながら余生を送る。
70代の後半になってきた頃、「80歳になったら足腰も弱くなって、車椅子生活になるんだろう」って考えるようになった。だったら小銭もあるし、気に入った場所で、完璧に死んでやろうじゃないかと考えたんだ。方々を見て回り、たどり着いたのが千葉県の鴨川市にある入居一時金約6000万円の高級老人ホームだった。
地元の大病院と提携し、看護師が24時間駐在。施設内にはバーラウンジにオーシャンビューのレストラン、フィットネスルームにプール、カラオケルームと高級ホテル並みの豪華施設だ。管理費などの月々の費用も20万円近くかかり、食事や酒代まで含めればさらに金が出ていく。それでも最初は快適だった。
高層階の窓から海を眺めると、毎日、海の色も空の色も違う。トンビがゆうゆうと空を舞い、朝目を覚ませば眼前に海がある。海を見て、音楽を聴き、本を読み、酒を飲む。景色に身を預けて暮らす喜びを初めて知った。
でも四季がひとめぐりした2年目から、意識が変わってきた。要するに退屈するようになったんだね。映画館はない、芝居小屋はない、飲み屋もない。東京まで2時間以上かかる。新宿で飲んだら帰れない。だんだん、「ここで何ができるんだ。何もできないじゃないか」と思うようになった。
