最初の1杯にぴったり合うなめろう。ちびちびと大事に食べたい
QRコードの注文はちょっとさびしい
さあ、入店だ。私と連れ合いが案内されたのは、カウンター席の背後のテーブル席。カウンターに並ぶお客さんたちの背中にちらりと視線を走らせた後は、ずらり貼りだされた品書きに目をやる。メニューは手元にもある。
「瓶ビールと、あじなめろう、にら玉子とじ、ちくわ揚げ、ください」
テーブルの脇を通りかかった姐さんに声をかけた。姐さんはそれを素早くメモしてから言った。
「スマホでも注文できますよ」
指さされたほうを見るとQRコードが提示されていて、Wi-Fiも使えるらしい。コードを読み取ると、メニューが表示され、そこから注文できるではないか。何年か前、吉祥寺の古いもつ焼き屋でPayPay決済ができたとき、なぜかオレの時代はもう終わったと物悲しかったが、今日はそんな気がしない。ただでさえ忙しい「酒亭玉河」の昼下がりのことだ。姐さんたちの手を煩わせることなく注文できるなら、それも店のためになる、と考えたからだ。
いや、でも、やはりどこか、さみしい。
「レモンサワーと生姜焼きちょうだい」
「生姜焼きは豚にします? イカにします?」
「あ、豚でね」
こんな言葉のやりとりが、そこにはないからだ。あの、ほんのちょっとした言葉のやりとりも、店にくるときの楽しみであることを、多くのオジサンたちは知っていることだろう。
なめろうが来た。すぐに、ちくわ揚げも来た。これまで、どれだけ食べてきたかわからないくらい馴染みのつまみだが、見るからにうまそうで嬉しい。口に含むと、大葉とショウガの香りがほどよく、穏やかな、なめろうである。今夏、房総勝浦で食べたヤツは、外房をイメージさせる、ちょっと強めの味わいで日本酒にぴったりだったが、立川のなめろうは、昼酒の最初の1杯に馴染む、凪の海のようななめろうだ。うまいねえ。
この、さりげなく振ってある白ゴマがうまいんだなあ……。そんなところにも思いがいくのは、ちびちびと大事に大事に食べている証拠だ。もうひとつスマホで注文して、白飯ももらい、ガツガツと喰えばいいだろうと思いはするが、いやいや、ちょっとずつ、なめるように食べるのが、うまいのだ。
