皿の端の辛子がまたいいのだ
記憶はちくわからパチンコ玉へ
それからちくわ。これも好きなんだなあ……。家でやる寄せ鍋は、できればワタリガニと昆布で出汁をとって、酒、しょうゆ、塩で味をつけるのだが、そこにはぜひともカマボコとともにちくわにも入っていてほしい。豆腐とネギと春菊とタラの切り身、そこにちくわがあれば申し分なく、ちくわは魚にも野菜にも豚バラにも調和して、味を乱さない。
魚のすり身を棒に巻き付けて焼いたちくわを、アオサを混ぜた衣をつけて揚げたのが、ちくわ揚げだ。廉価だし、おやつみたいな肴だけれど、まずかろうはずがない。熱々のところに醤油をたらし、それを箸でつまんで皿の端の辛子にちょいとつけてから口へ運ぶと、なんとも贅沢な味わいなのである。
昔、『タモリ倶楽部』に出させていただいたときだったか。貧乏時代に何をつまみにしていたかというトークで、タモリさんはちくわを縦に切って開き、甘辛の汁で煮て鰻の蒲焼の代わりになるよと言って、実際に作ってくれたものだった。ふと、そんな記憶も蘇る。
20年も前の話なのに不思議なことだが、そのとき、同じ番組に出演していたなぎら健壱さんは、小さなビニール袋からパチンコ玉を取り出して口に含み、
「これを舐めてから酒を飲むのよ。玉から鉄分が取れるからね」
と言ったのだった。私は、「スターが作る“おつまみ”選手権」というこの企画の審査員として出演したのだけれど、日ごろテレビで観ている人たちの、あまりの奇抜さ、おもしろさに、度肝を抜かれたものだった。
ちくわからパチンコ玉へと、記憶が飛んだところへ、にら玉子とじが来た。
にら玉は冷めてもうまいからたまらない
これも、飯にのせて食べたい料理だが、甘辛の味わいのやさしさは、どんな酒にも合うだろう。そして、冷めてもうまいのが身上ではないかと思う。
カウンター席を見ると、中央に女性の姿がある。おひとりでランチを楽しんでいる。他はオジサンばかり。みなさん食べながら、あるいは注文の品を待ちながらスマホを見ている。
飲み屋でひとりスマホを見る。その光景は、しばらく前まで、どこか殺伐としたものとして私の目に映っていた。なぜかと言えば、せっかく店に入ったのに、周囲の音も光景も遮断して自分の世界に入り込んでしまうのはもったいないし、ヤボなことだと思っていたからだ。特にイヤホンを差している人を見ると、なんだか切ない気持ちがしたものだった。
けれど、今は、少し違う。昔だって新聞や週刊誌を片手に飯を喰ったり酒を飲むことがあったではないか。私自身、居酒屋で日刊紙なんか読みながら酒を飲むのは好きだった。スマホを昔の新聞雑誌と思えば、何もさびしいことはない。

