シャリシャリの日本酒は甘みが膨らんでとてもうまい
若山牧水の歌に心ウキウキ、酒がどんどん進む
店内は、2時半ごろから、また少し混んできたようだ。しかし、うるさくならない。みなさん静かに飲んだり食べたりしている。サバの塩焼き定食にビールを添えている人がいる。カレーライスとビールという人もいる。私たちの近くのテーブルには、30代だろうか。女性のふたり連れがやってきた。彼女たちが飲んでいるのは、翠ジンソーダであるらしい。
みなさん、自分自身に帰るというのか、誰に気を遣うこともなく、自然体で、ここでの時間を過ごしている。声高に話す人もほとんどなく、広い店内は、とても落ち着いている。
連れ合いは翠ジンソーダを、私はウイスキーのハイボールを注文した。翠ジンソーダは390円、デュワーズハイボールは420円。安い、安い。
私の席は厨房を背にしていたので、ホール担当のスタッフさんが通るたびに、ちらりと、料理が見える。ふと見ると、私の視界にうまそうなポテトサラダが飛び込んできて、迷わず頼むこととし、たこ唐揚げとともに追加した。
ポテトサラダは濃厚べったり系ではなく、ジャガイモのうまさをしっかり感じさせるが、味わいはあっさり系、上品なのだ。
どっしりした見た目だが味はあっさりのポテトサラダ
たこの唐揚げは私の好物のひとつだが、なにしろハイボールとの相性がいい。昼酒の勢いはいや増すばかりだ。最初のビールを頼んだときから気になっていた、いわしの刺身を頼むと同時に、酒を日本酒にかえた。
白鶴 みぞれ酒。300ml入りのボトルで770円。マイナス12℃で冷やしてある。グラスに注ぐとトロトロしていて、口に含むと、シャリシャリの日本酒シャーベットだ。しかし、キンキンに冷たいというわけでもない。日本酒の甘みも膨らんで、実に具合がいい。
それほどに うまきかとひとの問いたらば
何とこたへむ この酒の味
若山牧水の歌ですが、なんと、酒亭玉河にはこの歌が掲げてあった。嬉しいねえ。益々酒がうまい。野菜の天ぷらも追加する。
ナス天がうまいのなんの。白鶴みぞれ酒はスルスルと咽喉を通って、あれよあれよという間になくなった。
少し甘くなった口に、ふたたびウイスキーハイボールを流し込む。今度はサントリーの角ハイボール。これも480円と安い。
食材費、運送費、光熱費、人件費、すべて大幅に値上がりしている中で、「酒亭玉河」は、1950年(昭和25年)以来、今も変わらず、お客さんへの良心的な対応を守っている。店は今年で76年。客の一人ひとりが、自分らしく、肩の力を抜いて憩える店であり続けている。こんな店が、我が故郷、東京の多摩地域にあることは、多摩っ子として誇らしいことだ。
多摩地域で初めて生ビールの販売を開始した老舗だ(「酒亭玉河」東京都立川市曙町2-12-19 B1階)
【プロフィール】
大竹聡(おおたけ・さとし)/1963年東京都生まれ。早稲田大学第二文学部卒。出版社、広告会社、編集プロダクション勤務などを経てフリーライターに。酒好きに絶大な人気を誇った伝説のミニコミ誌「酒とつまみ」創刊編集長。『中央線で行く 東京横断ホッピーマラソン』『下町酒場ぶらりぶらり』『愛と追憶のレモンサワー』『五〇年酒場へ行こう』『酒場とコロナ』『酒好きの記』など著書多数。「週刊ポスト」の人気連載「酒でも呑むか」をまとめた『ずぶ六の四季』や、最新刊『20代に教えたい酒場案内』が好評発売中。


