「Osavul」がAIを使って暴き出したロシア発の情報工作の実態とは(Getty Images)
元来、SNSでは真偽不明の情報が飛び交うことも多い。最近はAIの進化によって、より簡単に偽情報を作成・拡散することができるようになり、各国が巧妙に世論工作を仕掛けているという。具体的にはどのような偽情報が拡散されているのか。ウクライナの事例を踏まえて、そうした工作に日本はどう向き合うべきか──、イトモス研究所・小倉健一氏が提言する。
ロシアからウクライナへ、絶え間なく流れ込む偽情報
10月20日、神戸市の神戸学院大学ポートアイランド第2キャンパスで開かれた日本とウクライナのフォーラムで、「Osavul」の担当者と話した。同社は、AIを使って情報工作を分析するウクライナ発の会社だ。年明けまでには、私もウクライナの現地へ取材に行けそうだ。今、最終調整をしているところだ。
現地の人々は、ロシアから絶え間なく流れ込む偽情報にさらされている。
ウクライナの政府機関が公表した資料を読むと、よくもここまでと思う話が並ぶ。たとえば、NATOの加盟国から届いた輸血用の血液が、エイズを起こすHIVや肝炎ウイルスに汚染されている、という偽情報が流れた。保健省の文書まで証拠として出回った。保健省によれば、当時は外国に血液の提供を求めた事実自体がなく、文書も偽物だった。
前線に家族を送り出した人にとっては、たまらない話だ。負傷して病院に運ばれても、治療で別の病気にかかるのではないか。嘘を信じれば、家族を任せる医療も支援国も信用できなくなる。
ゼレンスキー大統領の妻オレナ氏が、訪米中にニューヨークのカルティエで110万ドル分の宝飾品を買った、という話もあった。店をクビになった元店員を名乗る人物がインスタグラムに領収書を載せ、ナイジェリアの新聞が記事にした。この人物はサンクトペテルブルクの学生で、店とは無関係だった。アカウントも話が出る数日前に作られていた。
指導者の妻が援助の金でぜいたくをしている。そう思わせれば、砲撃の下で暮らす国民も、税金で支援を支える国の人々も腹を立てる。ウクライナの戦略コミュニケーション・情報安全保障センターがOsavulのデータで拡散経路を調べると、過去のロシアの工作に使われた発信元が再び登場していた。
他にも、夫妻がナチスの宣伝相ゲッベルスの旧別荘を買った、オレナ氏が新型の高級車ブガッティを手に入れたという作り話も広まった。海外メディアを装うサイトや、内部事情を知る人物の証言を使う。ブガッティの件では、告発した販売店員そのものがAI製だった。
兵士まで作り出す。ウクライナの偽情報対策センターが公表した報告には、AIで作った軍服姿の人物が出てくる。不満を語る動画に、別の投稿者が任務の拒否や反乱を示す説明を付け、ロシア側の宣伝サイトがニュースとして扱う。出所不明の動画が、報道された事実のように見えてくる。
病院、大統領夫妻、兵士。標的を変えても、誰も信用できないと思わせる手口は共通している。嘘を見抜く側は、領収書を調べ、動画の出所を追い、次の話が出ればまたやり直す。読むたびに真偽を調べるだけの時間はない。訂正を読んでも、次に似た話が流れれば、また気にかかるだろう。
