成人が相続放棄するときの申述書の記入例(裁判所ホームページより)
「葬儀のために残していたお金」は使えるのか
相続放棄をすることにしたAさんだったが、扱いに困ったのが、母の銀行口座に残っていた10万円ほどのお金と、母が入院時に持っていた20万円ほどの現金だ。
「母が入っていた施設の職員さんがいうには、自分の葬儀費用のために残していたお金だったそうです。弁護士に相談したところ、相続財産から社会通念上相応な葬儀の費用を支出するのは相続財産の処分に当たらないという判例があり、母のお金を使っても問題ないとのこと。そこで母が残していた現金は全て葬儀費用に充てました。葬儀は小規模の家族葬で費用30万円ほどでした」
母の心遣いを活用できたのは良かったが、問題となったのは母が入っていた施設の費用と病院の費用だ。
「弁護士の説明では、それらの費用は本来母が支払うべきお金であり、未払い分は母の負債と変わらないので、それを遺族が支払うと相続放棄ができなくなる可能性があるとのことでした。でも、私たち兄弟ができなかった晩年の母の世話をしてくれた施設や病院に対して、費用を支払わないのはあまりにも気が引ける。弁護士にその旨を話したら、『あくまでも遺族のお金で支払う』という形であれば、遺族が支払っても問題ないとアドバイスをしてくれました。その後、施設と病院から請求書が届き、兄弟で折半して支払いました」
自己判断せず専門家に知見を求めることも重要
相続放棄に関する疑問が解決したAさんは、そのまま弁護士に手続きを依頼。相談料込みで費用は6万円ほどだった。
「弁護士に依頼したのは私の分だけです。弟の分について、弁護士は『提出する相続放棄の申述書の写しをお渡しするので、それをもとに弟さん自身が手続きをすることもできます。それなら弁護士費用も浮きますよ』と言ってくれたので、弟は自分で手続きをしました。弁護士がいうには『相続放棄ではよくあるケース』だそうです」
一連の相続放棄の手続きについてAさんは、「意外とすんなり終わった」と振り返る。
「早い段階で母に借金がある可能性を把握し、すぐに弁護士に相談できたのが良かったですね。母が残していた少しのお金についても、何も考えずに使っていたら相続放棄が難しくなっていたか、面倒な手続きが発生したかもしれないと弁護士は話していました。自己判断せず、専門家に知見を求めながら動くことが何よりも重要なのだと感じました」
遺族のリスクを回避する意味で、必要な手続きである相続放棄。失敗しないためにも、正しい知識を身につけておきたい。
