キャリア

“地道銭”の尊さ 59才ダンサー「体で稼いだ1000円は重い」

気を使って働くより、体で稼いだ1000円は重たい

「でも、わからないもんよね」

 ひと通りの話を終えたK美が、ひと息ついて言葉をつなぐ。

「ダンス教師だけしていたときは、お金がないことばかり考えていたのに、今はほとんど考えない。将来の不安も『ない』といったらウソになるけど、深刻じゃないの」

 理由を聞いたら、

「職場に慣れて、30代、40代のパート仲間ができたことが大きいね。お金がないことが当たり前の彼女たちには、教わることがいっぱいある」

 たとえば冷蔵庫の中には必要最低限度しか入れず、2LDKのマンションは電気代がもったいないから寝起きのすべてはLDKでいい。それから、お金は銀行に貯金しないで、たんす預金。

「通帳の数字に比べて、お札は目に見えるから安易に使う回数が減る。息抜きは割り勘でドリンクバーでお茶飲んで、朝までワイワイ。毎日、小銭しか使わないからお金が残るようになった」

 ダンスの競技会のたびに何十万円もかけてドレスを作っていたことがウソみたい。ブランドのバッグとか新しい洋服とか、なぜあんなにお金を使ったんだろう、と語るK美の話を聞きながら私は考えた。

 昭和の高度成長期と、平成のバブル期を体験した昭和半ば生まれの私たちは、“生活の潤い=お金を使う”と思い込んでいるけど、それって勘違いだったのだろうか。

「いやいや、気を使って稼いだお金はそれで気晴らししたくなるけど、体で稼いだお金は1000円が重たいんだよ。あぶく銭の逆の“地道銭”のありがたさは、若い時は気づかないの」

 マンションの管理人のパートでひと汗かいてきたM子も、同様のことを言う。

 先日、私は地下鉄ホームのベンチで、70代女性からビル掃除のスカウトをされた。「登録だけでもしておけば? 80才過ぎてもできるよ」と。そのときの「時給1000円から」と書いたチラシを、取り出しては眺めている。

※女性セブン2017年12月21日号

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