大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

日立とトヨタ、大転換の背景にある「同じ根っこ」の問題

 そして修理に行った際に、その製品や他の製品の買い替えをそれとなく提案する、というやり方で細々と商売を続けているのが現状だ。かつては電球や電池も飯の種になったが、今はコンビニで間に合う。

 これまで家電メーカーは、流通・小売業者に対して販売支援を行ない、自社製品を消費者に購入してもらうように仕向ける「プッシュ戦略」を展開してきたが、それはもはや通用しなくなっているのだ。

 しかも日立の場合、テレビ(Wooo)は全く競争力がなくなり、国内販売から撤退せざるを得なくなった。しかし、系列販売店はテレビを売らないわけにはいかない。そこで、ソニーのテレビ(BRAVIA)を扱うことにしたのである。

 そうしたところで日立本体は痛くも痒くもないし、系列販売店としても、日立のテレビより人気のあるテレビを売らせてもらったほうがありがたいに決まっている。このニュースを報じた日本経済新聞(9月26日付)はライバル商品の販売を「苦渋の策」と書いたが、実際は極めて理に適った当たり前の判断なのだ。

 ただし、そもそも日立のテレビからの撤退は遅きに失している。日立がお手本にしてきた“憧れの先輩”であるアメリカのGE(ゼネラル・エレクトリック)は、1987年にテレビ事業を売却した。さらには、主婦に絶大な信頼があった白物家電事業も中国のハイアールに売ってしまい、収益性が高い医療用機器・システムや重電、航空機エンジンなどに経営資源を集中している。今回の日立の決断は、30年遅れとも言えるのだ。

 トヨタはもっと遅れている。未だに販売チャネルがトヨタ店、トヨペット店、カローラ店、ネッツ店の四つもあり、さらにレクサス店がある。ユーザーのニーズより企業の都合や論理を優先する技術先行型の「プロダクトアウト」で、日立と同様に自分たちが売りたい商品を強い販売力で売る「プッシュ戦略」を展開してきたわけだが、こちらもとっくに限界に来ている。

 すでに日産自動車は5系列あった販売網をゴーン改革で1999年にレッドステージ、ブルーステージ、レッド&ブルーステージの3系列に減らし、2011年以降はこれも廃止して世界共通の「NISSAN」に統一した。

 本田技研工業も2006年、それまでの3系列から「ホンダカーズ」に一本化した。マツダなども国内販売網は事実上一本化しており、自動車メーカーで国内に複数の販売系列を持っているのはトヨタだけだった。

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