田代尚機のチャイナ・リサーチ

中国の「人民元デジタル通貨」計画、背景にリブラへの警戒感も

 従って、デジタル通貨はまず、一部の紙幣、硬貨の代替としてスタートさせ、その取引をどこまでも記録するようなことはしない。また、中央銀行は発行だけを行い、それを指定する金融機関に提供する。消費者に流通させるのは金融機関の役割であり、そこについては中央銀行は触れないといった二元システムとなるようだ。

 現段階では未定であるが、市場では、4大商業銀行(中国工商銀行、中国農業銀行、中国銀行、中国建設銀行)、アリババ、テンセント、中国銀聯(China UnionPay)の7金融機関(アリババ、テンセントは出資の形で銀行業務に参加している)が選ばれるとみられている。もしそうなれば、デジタル通貨の発行は、アリババの支付宝、テンセントの微信支付といった電子マネー、中国銀聯のクレジットカード業務には、ほとんど影響がないばかりか、彼らが使い勝手の良いデジタル通貨を積極的に利用することで、事業拡大を強化できるかもしれない。

 消費者にとっては、民間企業であれば倒産リスク、すなわち、持っている電子マネーの価値がゼロになるリスクもあるが、中央銀行の通貨であれば、そんな心配はなくなる。

 中国人民銀行は紙幣・硬貨発行のコストを引き下げ、偽造されるリスクを極端に小さくし、マネーサプライの管理を強化できる。また、銀行では、現金の輸送、保管に関する費用、ATMにかかる費用や投資を抑え、行員や支店の数を減らすことができる。銀行システム全体をレベルアップし、IT化を進めることができる。

 流通段階では、ウォレット(デジタル通貨を出し入れする際に財布の役割を果たすアプリ)など決済に関するサービスが充実したり、暗号化、認証などのセキュリティー関連の需要が伸びたりしそうだ。そうしたセクターは、投資家からの関心も高まるであろう。

 もっとも、中国がデジタル通貨を発行するのは、リブラの脅威に対抗するといった点にも大きな理由があるだろう。

 リブラは現段階では、各国の中央銀行から強い警戒感を持たれているが、リブラがドルを主要な裏付け資産とする以上、リブラの普及はドルの信認強化に繋がる。

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