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原油暴落を引き金に… 米FRBが警戒する金融危機シナリオ

 影響はそれだけに留まらない。

「アメリカのシェール企業は数百億ドル規模の社債を発行しており、中には信用格付けの低いジャンク債も多く、それらの一部を銀行やファンドなどの金融機関が保有しています。原油安によるシェール企業の業績悪化は、こうしたジャンク債のデフォルト(債務不履行)に繋がる可能性があり、さらにはそれを保有する金融機関にまで飛び火するのではないか、という不安が市場を襲っています」

 これらのジャンク債の貸出債権を束ねた金融商品・CLO(ローン担保証券)は、多くの金融機関が保有している。2007年にはアメリカでサブプライムローン(低所得者向け住宅ローン)に投資する金融商品が不良債権化したことで、後のリーマン・ショックにつながった経緯がある。そのときと似たような構図が危惧されているわけだ。

 仮にジャンク債がデフォルトすれば、それらを保有する金融機関の資金繰りが困難になり、新型コロナウイルスによる景気悪化と共に、ダブルで世界経済に打撃を与えかねない。もし金融機関にこうしたシステミック・リスクが生まれれば、リーマン・ショック級の危機にまで発展する可能性もあるだろう。

「FRB(米連邦準備制度理事会)はシェール企業の社債デフォルトに端を発する『金融システムの停滞』を最も警戒しています。政策金利引き下げや量的緩和を素早く行ったのは、こうした危機を絶対に引き起こさないという姿勢を金融機関に示したとも捉えられます」

 FRBは3月12日から2日間で短期金融市場へ1兆5000億ドル規模の資金を供給。3月15日には事実上のゼロ金利政策になるまで利下げを行い、数か月以内に米国債などを約7000億ドル買い入れることも発表している。

 だが問題は、原油価格を巡る争いがいつまで続くのか、という点だ。

「ロシアは今回の原油安を『最大10年は耐えられる』と強気の姿勢を示しているため、原油安競争が早期に収束するとは考えにくい状況です。原油価格が軟調のままでは、産油国は株式などの資産を売却して、現金化する可能性もあります。この動きはまだ顕在化していないと私は見ていますが、後に本格化すれば世界の株式市場はもう一段の下げを見るかもしれません」

■エミン・ユルマズ(Emin Yurumazu):エコノミスト、為替ストラテジスト。1997年に日本に留学。東京大学工学部卒後、野村証券のM&Aアドバイザリー業務や機関投資家向けの営業などを経て2016年「複眼経済塾」取締役・塾頭就任。著書『米中新冷戦のはざまで日本経済は必ず浮上する』他、ツイッター@yurumazu

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