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マルクス経済学で育った森永卓郎氏、AI関連本を読んで抱えた葛藤

森永卓郎氏は『シン・ニホン』をどう読んだか?

森永卓郎氏は『シン・ニホン』をどう読んだか?

【書評】『シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成』/安宅和人・著/ニューズピックス/2400円+税
【評者】森永卓郎(経済アナリスト)

 未来を予測することは、過去を評価するよりはるかに難しい。予測には、現状を正確に捉える深い知識と未来を描き出す柔軟な発想力の双方が必要だからだ。その点、本書は、その困難を克服し、極めて具体的に世界と日本の未来を描き出している。

 本書のあらすじは、こうだ。いま世界では、人工知能を中心とした情報処理技術が急速に進歩している。それを利用して、これからはすべての業種で、加速度的に生産性が上昇していく。しかし、日本はそうした技術で圧倒的に遅れをとり、旧来の大量生産型のビジネスモデルに執着している。

 これからは、未来=課題×技術×デザインの方程式が示すビジネスが主流になる。こうすれば我々の生活が改善されるというアイデアが莫大な利益を生むのだ。日本人は夢を膨らませるのが得意だし、海外の技術を利用して改善・産業化するのも得意なので、いまからでも新しい波に乗るのは不可能でない。

 私は元々理科系で、人工知能も少しは勉強したので、著者の予測が的確だということは分かる。ただ、私は読みながら、ずっと心の中に葛藤を抱えていた。

 私は、マルクス経済学で育ったので、付加価値は、現場の労働者が一生懸命努力して、額に汗して働くことで生まれるものだと信じてきた。だから、働きもせずにちょっとした思い付きでカネを稼ぐ若者たちを徹底的に批判してきた。ところが、本書は、単なる労働が価値を生む時代は終わると言っているのだ。労働は、コンピューターがしてくれるからだ。

 本書で私が一番救われたのは、著者の次の指摘だ。世の中には、画期的なアイデアを持つ起爆人種は数百人に一人。それに乗っかる参画人種が1割。応援人種が2~3割、無関心人種が4~5割。残りの1~3割が批判人種だ。しかし、批判人種は大切な仮想敵だと著者は言う。仮想敵があるからこそ若者は元気づけられるからだ。だから、私はこれからも、地道な労働を軽視する若者たちを徹底的に批判していくことに決めた。

※週刊ポスト2020年4月24日号

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