真壁昭夫 行動経済学で読み解く金融市場の今

商社株を買い集めるバフェット氏と「保守性バイアス」の罠

 収益力の低下した企業が存続し続けることはできない。いまや中国経済は成長の限界を迎え、インフラ投資によって経済の底上げを目指すことも難しくなっている。その姿は1990年代初頭のバブル崩壊から1997年まで、本州と四国を結ぶ本州四国連絡橋(本四架橋)の建設など公共事業を積み増して雇用を守ろうとした、かつての日本の姿にも重なる。

 こう考えると、中国の需要に依存する資源ビジネスに軸足を置く日本の商社の株価は割安とは言い難く、バフェット氏の投資スタンスが「有効」ではない、という見方にも説得力がある。むしろバフェット氏は、「コロナショックで下落した資源価格は一時的なものにすぎず、やがては回復するだろうから、資源ビジネスを収益源とする商社株は割安である」という、ステレオタイプな考え方に固執しているように見える。こうした特定の見解や予想に固執することを、行動経済学では「保守性バイアス」と言うが、バフェット氏もそうした心理に支配されていたのではないだろうか。

 もちろん、このシナリオだけでなく、バフェット氏の頭の中にはまた違うシナリオがあるかもしれない。バフェット氏の投資手法が有効かどうか、今後も注視していく必要があるだろう。

【プロフィール】まかべ・あきお/1953年神奈川県生まれ。法政大学大学院教授。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリルリンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。「行動経済学会」創設メンバー。脳科学者・中野信子氏との共著『脳のアクセルとブレーキの取扱説明書 脳科学と行動経済学が導く「上品」な成功戦略』など著書多数。

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