大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

コロナ禍で不動産市場が激変 東京のオフィス需要減で修羅場が始まる

都心部のマンション需要は依然として高いが…(イラスト/井川泰年)

都心部のマンション需要は依然として高いが…(イラスト/井川泰年)

 新型コロナウイルスの影響を受ける日本経済。インバウンド景気の象徴的存在でもあった銀座の商業ビルでは、テナントの撤退も相次いでいる。都心の不動産への求心力低下が何をもたらすのか。経営コンサルタントの大前研一氏が、激変する不動産市場の近未来図を読み解く。

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 新型コロナウイルス禍で不動産市場が激変している。

 オフィス仲介の三鬼商事によると、東京都心5区(千代田・中央・港・新宿・渋谷)の2021年1月時点の平均空室率は4.82%で、11か月連続で上昇した。企業の在宅勤務・テレワークやレイオフが拡大し、貸しオフィスの契約解除やスペース縮小の動きが広がっているからだ。

 本社ビルを売却する企業も相次いでいる。大手音楽会社のエイベックスは港区南青山にある本社ビルの売却を決め、大手広告会社の電通グループと物流大手の日本通運も港区東新橋にある本社ビルの売却を検討していると報じられた。

 このうちエイベックスと電通グループは売却後もそのままテナントとして入居する「リースバック」だ。つまり、保有不動産をキャッシュに換え、新型コロナ禍で悪化している業績の穴埋めをするわけだ。

 しかし、自社ビル時の経費は建物の減価償却費だけだったのに対し、売却後は賃料を払っていかねばならない。そうするとキャッシュが出ていくので、企業は事務所スペースの高コストを痛感するようになり、ますます在宅勤務・テレワークやレイオフを拡大して事務所スペースを削っていくと同時に、都心を離れる動きが加速するだろう。最終的には40%を自社で使えばよいほうだ、というのが今までの経験である。

 もともと総務・経理・人事・法務などの間接部門は賃料が高い都心にいる必要がなく、直接部門でも企画はむしろテレワークで十分だ。都心にいなければならないのは営業ぐらいだが、その人たちも今や多くの企業がフリーアドレス(*社員が個々のデスクを持たず、出社したら働く席を自由に選択できるオフィススタイル)を導入しているので、事務所スペースは今までより大幅に小さくて済むようになっている。

 さらに今後、AI(人工知能)を活用した「テレ営業」が増えてくれば、それさえもほとんど不要になる。すでに総合人材サービスのパソナグループは千代田区大手町から兵庫県淡路島に本社機能の一部移転を進めているが、これから東京都心のオフィス需要は年々減少し、最終的には現在の4割のスペースで事足りるようになるだろう。

 前述した平均空室率の調査対象は1フロアの面積が100坪以上のオフィスビルなので、それより小さい物件も含めると、実際の平均空室率は10%を超えている可能性もある。空室率が5%を上回ったら賃料が下落するという経験則もあり、現実にバブル崩壊後の1990年代には10%に達して、新築ビルの価格がマイナスになったこともある。今後はペンシルビルの空室率が30%ぐらいまで上昇していくかもしれない。

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