大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

拡大する貧富の格差 克服には資産税の抜本改革が必要と大前研一氏

 かたや日本の固定資産税は、アメリカの鑑定評価額とは異なる「課税標準額(固定資産税評価額)」に1.4%の税率をかけた金額だ。一般的に課税標準額は、不動産が実際に売買される時の時価評価額(実勢価格)の70%ほどになる。時価評価額が1億円でも課税標準額は約7000万円だから、固定資産税は約98万円だが、時価評価額に1.4%課税すると140万円となる。

 ちなみに、日本では築年数が経つにしたがって建物の価値が下がっていくので、新築物件と築30年を超えた古い物件の課税評価額には雲泥の差が生じる。一方、アメリカの場合は中古不動産市場が発展しているため、建物の築年数は不動産の価値を評価する大きな要素にはならない。立地と敷地面積・床面積が同じくらいなら、新築物件でも古い物件でも鑑定評価額はさほど変わらず、むしろ古い物件のほうが高い評価額になることも珍しくない。このため、アメリカの固定資産税は日本のそれよりも、かなり負担が重くなる。

 言い換えれば、不動産や株などの時価評価額に対する資産課税にシフトして富裕層の負担を重くすれば、税収は確実に増えるのだ。

 ただし、そういう税制にすると富裕層は住む場所を移し、国籍さえも変えて海外に逃避してしまうだろう。実際、アマゾンのジェフ・ベゾスCEOやマイクロソフトのビル・ゲイツ共同創業者、テスラのイーロン・マスクCEO、ドナルド・トランプ前大統領らは、州所得税がゼロの州に住んでいる。日本人の金持ちにも、税金が非常に安いシンガポールなどに移住した人は少なくない。

 それを防ぐためには、世界の先進国が同じメカニズムの資産課税を一律に導入し、どこに移住しても相応の負担を免れることができないようにすべきである。もちろん実現は容易ではないが、「K字型」の分断を防ぐ方法は限られている。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊は『日本の論点2021~22』(プレジデント社)。ほかに小学館新書『新・仕事力 「テレワーク時代」に差がつく働き方』等、著書多数。

※週刊ポスト2021年4月2日号

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