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「春の嵐」が起きるメカニズム 過去には台風並みの記録的暴風も

台風並みの暴風と雨の中、傘を差して歩く人々(写真/2012年4月、時事通信フォト)

台風並みの暴風と雨の中、傘を差して歩く人々(写真/2012年4月、時事通信フォト)

 3月も下旬に入り、本格的な春の訪れを感じられるようになった今日この頃。暖かな陽気に誘われて、感染対策をしたうえで桜の花見を計画している人もいるかもしれないが、「春の嵐」という言葉もあるとおり、強風にも注意したい。春の嵐が起きるメカニズムについて、気象予報士の田家康さんが春にちなんだ詩歌とともに解説する。

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 3月11日の広島を皮切りに、全国各地から桜の開花の報せが届いている。桜の開花は、関東地方以西から見られ始め、4月に入ると開花前線は東北地方を北上していく。今年の桜の開花は平年より早い所が多く、東京でも3月14日と、東京での観測史上最速の開花宣言となった。地球温暖化の影響もあるだろうが、都市部を中心に温暖化するヒートアイランド現象の要因がより強いだろう。

 桜の開花は、同時に春の嵐の訪れの時節と重なる。井伏鱒二は、唐の詩人・于武陵の『勧酒』にある「花発多風雨、人生足別離」という詩を、「ハナニアラシノタトヘモアルゾ、『サヨナラ』ダケガ人生ダ」との名訳を残している。咲いた花が散るように、人生には必ず別れが付きまとう、といった意味である。こうした詩があるように、桜と嵐は古くから並べて語られてきた。

 確かに春は、嵐のような暴風が吹く印象が強い。どんな気象のメカニズムでそうなるのだろうか。そのポイントは、北の冷たい気団と南の暖かい気団の“せめぎ合い”だ。3月になると、中国の長江以南から東シナ海、そして太平洋の南海上にあった暖かく湿った気団が北上する。一方で、日本列島にはまだシベリアからの冷たい気団が残っている。

 この2つの気団が接すると、冷たい気団は暖かい気団の下層に西側から潜り込み、暖かい気団は東側から冷たい気団の上を登っていく。こうして、地域全体の空気は反時計回りに回転を始める。2つの気団がぶつかり合い、風の回転の中心にある低気圧が急速に発達すると、中心に向かって風がさらに強まっていく。これが春の嵐をもたらす正体だ。

 この低気圧の中には、台風並みに発達するものもあるため注意が必要だ。2012年4月初旬に起こった暴風被害が良い例だろう。同年4月2日、中国の華北にあった低気圧は朝鮮半島を横断し、津軽海峡を抜けた。2日21時から3日21時にかけての24時間で、中心気圧は1006hPa から964hPa へと42hPaも降下。低気圧に伴う寒冷前線の通過により、和歌山市では風速32.2メートルを記録し、全国78の観測地点で暴風の目安となる風速20メートルを上回るなど、日本各地で記録的な暴風が観測された。これによる死者は全国で4人、約500人が負傷し、広範囲に停電も発生する事態となった。

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