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結婚に失敗すると社会の最底辺に…「母子家庭の貧困問題」をどう解決するか

男の失業者とシングルマザーの母集団はちがう

 ここからいえるのは、積極的雇用政策は女性の失業者に対しては効果的に機能するが、それ以外の失業者(低学歴の男性や高齢者)にはあまり役に立たないらしいことだ。ここでは母子家庭かそうでないかを区別していないが、彼女たちの多くがシングルマザーだと考えれば、このことは母集団のちがいで説明できるだろう。

 母子家庭の貧困というのは、子どもを産んだあとに離婚するか、未婚のまま出産した女性の失業問題だ。ある男性と出会って幸福な家庭を築けるか、破綻するかは事前にはわからないから、子どもを産んだすべての女性が母子家庭になるリスクを抱えている。子どもを抱えて失業した女性の多くはたまたま運が悪かっただけで、その母集団はふつうの女性なのだ。

 母子家庭の困難は仕事と子育ての両立で、求職活動も仕事に役立つスキルの習得もじゅうぶんにできない。そこで無料の保育などで子育ての負担を軽減し、適切な職業訓練を行なえば、貧困に陥っている母子家庭の母親は、母集団である働く女性たちと同じレベルの仕事をこなせるようになるだろう。

 それに対して「(長期に)失業している男性」は母集団(男性の平均)とはかなり異なっている。学歴、資格、経験、才能など、労働市場で評価されるなんらかの要素をもっている者は働いているだろうから、必然的に「それ以外の男性」の集団になる。これが女性とちがって、職業訓練も職業紹介も役に立たない理由だろう。

 ここでいいたいのは、「貧しいひとたち」のグループはそれぞれ異なっているということだ。一人で子どもを育てている女性は母集団(ふつうの女性)と重なっているが、男性はそうではない。日本の場合、この単純な事実を無視して、シングルマザーを男性や高齢の失業者と「同じ」と見なすことが、極端な貧困率の高さに結びついているのではないだろうか。

 だとしたら効果的な貧困対策は、生活保護から母子家庭を切り離し、シングルマザー向けの適切な生活・就労支援をすることだろう。これで貧困に苦しむ母親や子どもたちが救われるだけでなく、生活保護受給者が納税者に変わって社会全体も利益を得られる。

【プロフィール】
橘玲(たちばな・あきら)/1959年生まれ。作家。国際金融小説『マネーロンダリング』『タックスヘイヴン』などのほか、『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『幸福の「資本」論』など金融・人生設計に関する著作も多数。『言ってはいけない 残酷すぎる真実』で2017新書大賞受賞。その他の著書に『上級国民/下級国民』『スピリチュアルズ「わたし」の謎』など。リベラル化する社会の光と影を描いた最新刊『無理ゲー社会』が話題に。

※橘玲・著『無理ゲー社会』(小学館新書)より抜粋して再構成

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