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携帯投資なければ楽天の営業黒字1000億円、三木谷氏「それのどこが面白い」

 三木谷は新卒の1988年から起業する1995年までの8年弱を日本興業銀行で過ごした。元銀行員の三木谷は、必要と判断すれば大胆にリスクを取るが、リスクヘッジも忘れない。例えばRCPで15兆円市場を狙って海外進出するなら、世界中でRCPを売り、システムを構築し、保守する構えを作らなくてはならない。それを自前でやれば、何百人、何千人を世界各国に配置する必要がある。固定費は大幅に上昇する。

 そこで二つの世界的企業と提携した。マーケティングはコンサルティング大手の米アクセンチュア、システムの構築・保守はインドのIT大手、テックマヒンドラだ。アマゾンとの激闘が続く国内ECでは日本郵政グループ(JP)と合弁会社を設立、JPが持つ国内物流網と楽天のAI(人工知能)を組み合わせ、次世代の物流インフラを構築する形を作った。

 三木谷は創業からしばらく後、父親で高名な経済学者だった三木谷良一のアドバイスを受け、楽天のブランドコンセプトを作った。

「大義名分」「品性高潔」「用意周到」「信念不抜」「一致団結」。五つの四字熟語はどれも伝統的な日本の価値観を表わしている。ネットバブルの中で、創業から株式上場までのスピードや時価総額を競った「渋谷ビットバレー(シリコンバレーをもじって、渋い〈bitter〉と谷〈valley〉を合わせた造語)」の起業家たちとは一線を画す。

 プロ野球に参入した2004年、プロ野球界のドン、読売新聞主筆の渡邉恒雄に会いにいく時、普段ジーンズにTシャツの三木谷はスーツにネクタイの姿で東京・大手町の読売本社に姿を現わした。楽天の後押しをした、経団連会長でトヨタ自動車会長の奥田碩は三木谷のことを「日本で一番優秀な学校(自分の出身校である一橋大学)の後輩」と呼んだ。

 今回の携帯電話参入でも、三木谷は官房長官だった菅義偉(現首相)や総務省首脳と対話を繰り返し、周波数の獲得につなげた。日本的価値観でエスタブリッシュメントと対話できる能力は三木谷の強みだが、大衆に「エリート」を連想させる弱みにもなる。そこが、エリート臭が一切しない孫正義との大きな違いでもある。

第4回後編に続く)

【プロフィール】
大西康之(おおにし・やすゆき)/1965年生まれ、愛知県出身。1988年早大法卒、日本経済新聞社入社。日本経済新聞編集委員、日経ビジネス編集委員などを経て2016年4月に独立。『ファースト・ペンギン 楽天・三木谷浩史の挑戦』(日本経済新聞)、『東芝 原子力敗戦』(文藝春秋)など著書多数。最新刊『起業の天才! 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』(東洋経済新報社)が第43回「講談社 本田靖春ノンフィクション賞」最終候補にノミネート。

※週刊ポスト2021年9月10日号

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