真壁昭夫 行動経済学で読み解く金融市場の今

岸田政権が掲げる「成長と分配」、このままでは“絵に描いた餅”で終わる

「成長なくして分配はない」と語った岸田首相だが…(写真/時事通信フォト)

「成長なくして分配はない」と語った岸田首相だが…(写真/時事通信フォト)

 人は常に合理的な行動をとるとは限らず、時に説明のつかない行動に出るもの。そんな“ありのままの人間”が動かす経済や金融の実態を読み解くのが「行動経済学」だ。今起きている旬なニュースを切り取り、その背景や人々の心理を、行動経済学の第一人者である法政大学大学院教授・真壁昭夫氏が解説するシリーズ「行動経済学で読み解く金融市場の今」。第30回は、衆院選も終わり、本格始動した岸田政権の成長戦略について考察する。

 * * *
 衆院選で与党が安定多数を確保し、いよいよ岸田政権が本格始動した。岸田文雄首相は「成長と分配」を掲げるが、一番心配なのは、分配と言いながら「バラマキ」に終始することである。衆院選で、選挙協力関係にある公明党に借りを作った自民党が、公明党が掲げる18才以下の子供たちに1人一律10万円相当を配る「未来応援給付」への妥協案で「年収960万円の所得制限」を設けたとはいえ、その対象は大きく絞り込まれたわけではない。結局は事実上の「バラマキ」であり、これでは経済成長は望むべくもないだろう

 何より岸田首相は、分配の源泉となる「成長」について具体的な政策が明示できていないのだ。

 コロナ禍に見舞われたこともあって、いま世界では、これまでとは異なる発想、価値観が経済、産業、企業を大きく変える「ゲームチェンジ」を迎えている。中国は共産党の一党独裁による「国家資本主義」を強力に推し進め、米国は半導体産業の育成に数兆円規模を投じるなど、国の成長を牽引する“旗”を鮮明にしている。

 ところが、日本経済の成長はいまだ「自動車一本足打法」と言わざるを得ない状況で、今後の世界的なテーマである「脱炭素」や「EV(電気自動車)」に本格的に乗り出しているかというと、決して十分とは言えない。

 そうした日本経済の出遅れは、日経平均株価が衆院選後に大幅な上昇を見せたとはいえ、いまだに1989年末に付けた過去最高値を上回っていないことからも明らかだろう。一方の米国は、米FRB(連邦準備制度理事会)が11月3日のFOMC(連邦公開市場委員会)でテーパリング(量的緩和の縮小)の開始を決めたが、パウエル議長が会見で「いまは利上げする時ではない」と発言したことから、利上げの早期化懸念が後退し、米国株は史上最高値を更新。日米の株価水準を比較しても、日本への成長期待が高くないことがうかがえる。

注目TOPIC

当サイトに記載されている内容はあくまでも投資の参考にしていただくためのものであり、実際の投資にあたっては読者ご自身の判断と責任において行って下さいますよう、お願い致します。 当サイトの掲載情報は細心の注意を払っておりますが、記載される全ての情報の正確性を保証するものではありません。万が一、トラブル等の損失が被っても損害等の保証は一切行っておりませんので、予めご了承下さい。