真壁昭夫 行動経済学で読み解く金融市場の今

岸田政権が掲げる「成長と分配」、このままでは“絵に描いた餅”で終わる

トヨタとテスラの株価推移の差

 象徴的とも言えるのが、日本が誇るトヨタ自動車と米国の新興EVメーカー・テスラの株価である。トヨタの株価はこの1年で1400円前後から2000円台まで上昇したとはいえ、テスラ株は3倍近い大幅な上昇を見せている。既にテスラの時価総額は1兆ドル(約114兆円)を超え、33兆円規模のトヨタを大きく引き離し、グーグル(アルファベット)、アップル、フェイスブック(メタ・プラットフォームズに社名変更)、アマゾン、マイクロソフトを表す「GAFAM」に付随する格好で「GAFAMT」とも呼ばれるほどになっている。

 実体を考えると、生産台数で圧倒するトヨタをテスラの株価が上回っているのは“行き過ぎ”と言えるが、そもそも株価は、成長に対する期待感が高いから買われて上がるものである。いくらトヨタが世界でも競争力のある自動車メーカーと言っても、期待成長率で見れば「安定的」としか言いようがない。残念ながら、世界の投資家の目は「安定」よりも、著しい伸び率を見せるテスラの「成長」に注がれているようだ。

 これは行動経済学でいう「コントロールイリュージョン」にほかならない。将来への期待感という“幻想”が膨らみ、そうした思い込みがさらに膨張して株価を押し上げる。言ってみれば「期待膨脹の法則」とでも呼べる状況で、テスラ株は高騰を続けているのだ。

 だからといって、いまさらテスラ株について「実体を伴わない株高」と声高に叫んだところで意味をなさないだろう。国全体の大きな経済成長を考える時に、それを牽引できるような産業を提示できるかは、まさに政権の「成長戦略」にかかっている。岸田政権がそれも示せないのであれば、「成長と分配」も絵に描いた餅で終わる可能性が高いだろう。

【プロフィール】
真壁昭夫(まかべ・あきお)/1953年神奈川県生まれ。法政大学大学院教授。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリルリンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。「行動経済学会」創設メンバー。脳科学者・中野信子氏との共著『脳のアクセルとブレーキの取扱説明書 脳科学と行動経済学が導く「上品」な成功戦略』など著書多数。最新刊は『ゲームチェンジ日本』(MdN新書)。

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