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トルコリラ暴落 エルドアン大統領の「利下げ路線」からの転換はあるか

エルドアン大統領が「利下げ路線」にこだわる理由とは?(AA/時事通信フォト)

エルドアン大統領が「利下げ路線」にこだわる理由とは?(AA/時事通信フォト)

 高金利通貨として知られるトルコリラの値動きが市場の注目を集めている。11月23日、わずか1日で一時15%も下落する記録的な急落を見せ、12月に入った現在もリラ安基調は続いている。トルコ国内で製品を販売する米アップルが、価格の調整が追い付かず一時オンラインストアでの販売を停止する事態にまで発展した。トルコリラ暴落の背景には何があるのか。住友商事グローバルリサーチ・シニアアナリストの広瀬真司さんが解説する。

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 長期にわたり下落基調が続いてきたトルコリラは、11月に下げ足を速め急落した。11月9日の1ドル9.7リラから、12月9日には1ドル13.7リラと1か月で約3割も下落。2021年初めには1ドル7.4リラだったので、この1年でリラの価値は4割以上下落したことになる。円建てで見ても、今年初めの1リラ14円程度から12月9日には8.2円と、対ドル同様にリラの価値は4割以上下落した。トルコ中央銀行はリラ安を食い止めるため、12月に2度のリラ買いを行ったが、大きな効果は見られず下落基調は続いている。

 なぜこれほど急激に下落したのか。その主な要因は、諸外国と大きく逆行するトルコの金融政策にある。米連邦準備理事会(FRB)が量的緩和の縮小(テーパリング)を決めたことで、早期利上げに踏み切るのではないかとの市場の観測が浮上。ブラジルなど諸外国の中央銀行は、米国の金利上昇を見越して徐々に利上げを進めてきたが、トルコは9月以降、この流れに反して利下げを実施してきた。

 この背景には、「利上げはインフレを抑えることはできず、むしろ悪化させる」というトルコのエルドアン大統領の経済への思い込みがある。通常、インフレが加速すれば金利を上げて物価の抑制を試みるが、エルドアン大統領は、金利を下げれば企業は金を借りやすくなり、雇用が生まれ経済活動が活発化することで輸出も増え、国が潤えばいずれ通貨は強くなり、インフレも落ち着くと考えているのだ。

 だがエルドアン大統領の意図に反して、利下げを重ねた結果トルコ国内では急激にインフレが加速。11月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比21.3%も上昇した。製造業の原材料や国内のエネルギー消費の9割以上を輸入に頼っているトルコでは、輸入物価の高騰は最も避けたい事態と言えるが、利下げによってインフレがさらに進むという悪循環に陥っているのだ。

 それでもエルドアン大統領は、利下げを擁護する発言を繰り返している。11月22日には、高インフレやリラ安について「国外からの操作による攻撃」であり、「我々は経済独立戦争に勝利する」と発言。敬虔なイスラム教徒であるエルドアン大統領は、「金利は望ましくないもの」というイスラムの教えに影響を受けていると言われるが、こうしたエルドアン大統領の発言が市場の失望を買い、トルコリラの暴落につながった格好だ。

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