投資

トルコリラ暴落 エルドアン大統領の「利下げ路線」からの転換はあるか

リラの暴落を受けてトルコのイスタンブールで発生した抗議デモ(Getty Images)

リラの暴落を受けてトルコのイスタンブールで発生した抗議デモ(Getty Images)

利下げに反対する人物は解任

 2021年第3四半期のトルコの実質GDP(国内総生産)成長率は、民間消費と輸出の伸びに支えられ、前年同期比7.4%増となり、今年1月から9月までの成長率も同11.7%増となっている。しかし、それはトルコ国民の生活向上には必ずしもつながっていない。店に並ぶ様々なモノの価格は目に見えて高騰する一方で給料は上がらず、国民の不満が日に日に高まるなか、各地で抗議デモも起きている。資産を守るため、手持ちのリラを外貨に交換する人も続出し、それがさらなるリラ安を助長する要因にもなっている。

 当然ながら、エルドアン大統領の考え方に反対する専門家も多くいる。だが、異を唱える者はことごとく排除されている状況だ。今年3月、当時のアーバル中央銀行総裁がインフレ抑制のため2%の利上げを実施したところ、その翌日にエルドアン大統領によって解任された。10月にも、利下げに反対したとされる金融政策決定委員会のメンバーを含む3人が解任され、12月2日にもエルドアン大統領の利下げ方針に賛同していなかったエルバン財務相が解任された。

 金融政策を行う中央銀行は、政治から独立していることが求められるが、エルドアン大統領の周囲は“イエスマン”ばかりになり、トルコ中央銀行の独立性は市場から懐疑的に見られているのが現状だ。

 エルドアン大統領が、急激なリラ安を引き起こしてでも利下げを強行するのはなぜか。トルコでは、2023年にトルコ共和国建国100周年を迎えるのに加え、前倒しがなければ同年6月に大統領・議会のダブル選挙が実施される予定だ。この象徴的な2023年の選挙に向けて、エルドアン大統領は何としても支持率を回復し、再選したいという狙いがある。そのカギとなるのがトルコ経済の浮揚なのだ。

 だが、当面の経済回復のためには、緊急的な大幅利上げなどの金利政策の転換が必要となるだろう。現状のエルドアン大統領の強硬姿勢を見ていると、利上げへの方針転換は簡単ではないように思えるが、トルコ中央銀行は、2018年9月に米国とトルコの関係が悪化した際、リラの暴落に対抗すべく金利を一気に6.25%引き上げたり、2020年11月にも4.75%の利上げを実施したりと、大幅な金利政策の転換を行ったことがある。このままリラ安に歯止めがかからない場合は、エルドアン大統領も中央銀行に決断を委ねる可能性もあるだろう。

 地理的優位性も高く、人口の平均年齢も若く、安くて能力の高い労働力が豊富にあるトルコは、中長期的に見て魅力的な国である。そうした国を大幅な通貨安が襲う中、市場ではエルドアン大統領がどう舵取りするのか、その行方が注目されている。

【プロフィール】
広瀬真司(ひろせ・しんじ)/住友商事グローバルリサーチ株式会社シニアアナリスト。米ジョージタウン大学外交学院にて修士号(中東研究)取得後、在イエメン日本大使館、国連開発計画(UNDP)パレスチナ人支援プログラム・エルサレム事務所、日系石油会社ドバイ事務所勤務などを経て、2015年住友商事グローバルリサーチ株式会社入社。専門は中東・北アフリカ情勢分析。

注目TOPIC

当サイトに記載されている内容はあくまでも投資の参考にしていただくためのものであり、実際の投資にあたっては読者ご自身の判断と責任において行って下さいますよう、お願い致します。 当サイトの掲載情報は細心の注意を払っておりますが、記載される全ての情報の正確性を保証するものではありません。万が一、トラブル等の損失が被っても損害等の保証は一切行っておりませんので、予めご了承下さい。