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93才母を看取った60代女性の自宅介護体験記 心身ともに圧倒されて学んだ教訓

家族での食事は毎日の楽しみ。「ああ、うまい」と目を細めて飲んだのがノンアルコールとも知らず

家族での食事は毎日の楽しみ。「ああ、うまい」と目を細めて飲んだのがノンアルコールとも知らず

「てめえ、ババア、ざげんじゃねーぞ」

 結局、母ちゃんと実家で暮らした4か月をひと言でいえば、「心身ともに圧倒されっぱなし」だね。体の方は2か月もベッドで寝たきりだったのに、突然、「はぁ、寝でっと体によぐねえがら、そごら歩ぐが」と言い出したから、まさかと思って手助けしたら、手押し車を押しながら自力で歩いたの。

 それからは、気が向くと「散歩すっか」と起き出して、結果、3か月目には、週に2回のデイサービスと1泊のお泊まりをするショートステイを受けられるほどまで回復したんだけどね。

 そんな行政サービスを受けてくれたら私はラクになるはずだったのに、その頃から母ちゃんに怒鳴り声をあげることが多くなってきた。

 一度くらいばあさんを泣かせてやりたくて、「てめえ、ババア、ざげんじゃねーぞ、バカ」とヤクザ口調で怒鳴り上げると、ひるむどころか無視。そして少し後に真っ直ぐ私の目を見て、「あーっははは」と大爆笑する。とても一緒に笑う気にならないどころか、ますます腹が立って仕方がない。だから、ケアマネジャーさんが老健(介護老人保健施設)へ預けることをすすめてくれたとき、私は二つ返事で飛びついた。

 老健に入れられるとわかったときの母ちゃんは、初めてジタバタした。首に手をかけて、自殺をほのめかすような仕草をしてみせた。

「ああ、やれるもんならやってみろ。いまやれ、すぐやれ」

 そう怒鳴ったのは私の本音。ここまで身を粉にした私に、もっと世話を続けろという親は親じゃない。ああ、もういいから死んでくれ。あのときの私は“介護殺人未遂者”だわね。

 と、ここまで言っておきながら最後にきれいごとを言うのもどうかと思うけれど、いま、親の介護をするかどうか迷っている人に言いたいの。「たとえ1日でも、全面介護をした方がいいよ」と。母ちゃんからはとうとう「ヒロコ、世話になったな」なんて言ってもらえなかったけれど、死に顔を見れば満足してあの世に逝ったのは間違いないと思う。

 そして私も悲しい半面、すっきりさわやか。これから思いっきり、親のいない人生を楽しんでやろうと思っている。

母ちゃんの葬儀は、私にとって「娘として過ごした日々の卒業式」。“学び舎”から離れるのは寂しいけど、やることはやったから笑顔で

母ちゃんの葬儀は、私にとって「娘として過ごした日々の卒業式」。“学び舎”から離れるのは寂しいけど、やることはやったから笑顔で

【プロフィール】
「オバ記者」こと野原広子さん/空中ブランコや富士登山など体当たり取材でおなじみのライター。女性セブン連載『いつも心にさざ波を!』も好評。64才。

※女性セブン2022年4月7・14日号

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