真壁昭夫 行動経済学で読み解く金融市場の今

プーチン大統領、ウクライナ情勢泥沼化で八方塞がりの「誤算」

アメリカやフランス、日本など、ゼレンスキー大統領が相次いで行った議会演説は大きな支持を集めている(写真はカナダ議会での演説/時事通信フォト)

アメリカやフランス、日本など、ゼレンスキー大統領が相次いで行った議会演説は大きな支持を集めている(写真はカナダ議会での演説/時事通信フォト)

落としどころが見つけられないプーチン大統領

 そうした2つの要素が大きく作用して、開戦に踏み切ったことが考えられる。ただし、いざウクライナ侵攻を始めると、大きな「誤算」に直面したのではないか。

 まず、ロシアが2014年にクリミアを併合した際には、いまほど世界的な反発は高まらなかった。そして、旧東ドイツを併合したドイツが、ウクライナに武器を供与するなど方針を大きく転換し、EU(欧州連合)と一体となってこれほどロシアを真っ向から批判するとは思っていなかったかもしれない。さらに、ウクライナのゼレンスキー大統領はタレント出身ということもあり、「追い詰めればすぐに逃げ出すだろう」と踏んでいたのかもしれないが、そうはならなかった。

 つまり、プーチン大統領の頭の中では、ウクライナ侵攻もコントロールできるはずという「コントロール・イリュージョン」が働いていたが、そのいずれもが当初の思惑とは違ったと推察される。そして、ここまで泥沼化してしまった以上、プーチン大統領にはもはや命がけで遂行する以外、選択肢が無くなってしまったのではないだろうか。

 ここまで来ると、落としどころを見つけるのは相当難しい。ゼレンスキー政権の転覆など、完全に制圧することは厳しい情勢であり、ウクライナ侵攻を止めることはプーチン大統領自身の支持率を大きく下げることにもつながり、場合によっては失脚もあり得るだろう。だからといって、仮にプーチン大統領が失脚したとしても、ロシアに対する世界的な批判がすぐに収まるわけもない。もはや後戻りできない状況にあるのだ。

 今、世界はもちろん、当のプーチン大統領でさえも先の読めない、落としどころが見えない状況に陥っている。自らの権力維持に努めてきた強権主義者がこの先、どんな手を打つか。当人の命運も含めて不透明な状況が当面続きそうだ。

【プロフィール】
真壁昭夫(まかべ・あきお)/1953年神奈川県生まれ。多摩大学特別招聘教授。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリルリンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学教授、法政大学大学院教授などを経て、2022年4月から現職。「行動経済学会」創設メンバー。脳科学者・中野信子氏との共著『脳のアクセルとブレーキの取扱説明書 脳科学と行動経済学が導く「上品」な成功戦略』など著書多数。近著に『ゲームチェンジ日本』(MdN新書)。

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