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出井伸之さん最後のロングインタビュー「ものづくり神話から脱却すれば日本経済は甦る」

これからの日本経済はどうあるべきか

これからの日本経済はどうあるべきか

日本は前から分断されていた

〈出井はかつて首相、森喜朗の肝いりで発足した「IT戦略会議」の議長に就任したことがある。2000年のことだ。社長を務めるソニー同様に、出井はインターネットの普及を急務と考え、ブロードバンドインフラの整備を提唱、それを進める。ブロードバンドインフラは世界に先駆けて日本での普及は一気に進む。けれども、そこで出井が体験したのは絶望的な“分断”であったという。〉

 議長の体験は、もう振り返っても“嫌になっちゃった”というものでした。それほど、辛い体験でした。初めて官僚機構、政治の真っ只中に入ったのだけれども、縦割り行政というのは凄まじいものでした。

 色んな手立てを使ったけれども、まったく官僚たちは変わらない。変わろうともしない。例えば、インターネットは総務省、コンピューターは経産省、コピーライト(著作権)は文科省かな? この3つの省庁を口説くなんてほとんど不可能。国家の命運をかけるようなことであっても、日本の経済の根幹を決めるようなことであっても、そこに立ち塞がるのは縦割り行政。つまり、決定的な“分断”ですよ。これはね、相当に深刻ですよ。

 さらに深刻なのはこうした縦割り行政が、日本の末端にまで蔓延っていることです。私は2006年にベンチャー企業の育成や大企業の変革をミッションにした会社「クオンタムリープ」を立ち上げました。そこには、色々な地方からも知恵を借りたいとオファーがくるんだけども、大体、現地に行ってがっかりすることばかりです。地方のトップは東京しか見てないし、ここでも縦割り行政が蔓延っている。県をまたげば話が通じないのだから、僕は都道府県なんてなくせばいいと思っているんだけど(笑)。まさに“分断国家”。コロナ禍によって、“分断”という言葉が一気にクローズアップされましたが、そもそも日本はそういう社会だったんです。

〈出井はソニー創業者、盛田昭夫に対する畏敬の念を隠そうとしない。東京通信工業の創業、戦後間もないという時期にもかかわらず米国への進出、そして家族での米国への移住。コンテンツの時代を睨んでのコロンビア映画の買収。そして、盛田は若者を大胆に起用し、チャンスを与えた。〉

 27歳の時ですよ。パリに行ってソニーフランスを作ってこいって言われてほっぽり出されたのは(笑)。同じようにイギリス、ドイツにも同期が送られた。会社に入ってまだ4、5年です。そうした社員を盛田さんは送ったんだな。

 何にも分からなくても、人間、ほっぽられると何とかしようとするんです。海に放りだされれば、泳ぐんですよ、人間は。ソニーの凄いところは、僕が海外に赴任した時、ソニーは一旦退職になって、微々たる退職金が出たんですよ。当時のソニーはそこまで人を追い立てるような会社だった。だから、社員は自立しようとし、能力を磨いた。

 だから、僕は企業が退職金をなくしてしまえばいいと思っています。退職金を当てにして働くのっておかしくないですか? その年齢まで働くことが目的になるのは違うと思う。退職金をやめて、その分、契約期間の給料を上げればいいんです。

 定年制もどうかと思う。フランスなんかで定年延長なんてやるとデモが起きますよ。若者を犠牲にするなって。それを許してるシステムがおかしいと僕は思います。5年ごとの契約で、若者でも60代でも、有能な人材だけ契約更新する。やはり、能力のある人にはその分のお金を払うというだけのことです。

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